Sunday, February 2nd, 2020

THE BIG BANG

80年代狂騒曲

text stuart husband

“強欲は善”という価値観の終焉 重大な転機となったのは1987年10月19日、いわゆるブラックマンデーである。ダウ平均株価が1日で22.6%も下がり、米国市場最大の下落率を記録すると、世界中の市場でも株価が暴落した。

 失墜の兆候は他にもあった。同じ月にトム・ウルフが出版した『虚栄のかがり火』では、分断された社会の構図が描かれている。主人公シャーマン・マッコイは、パークアベニューに300万ドルのアパートメントを持つエリートトレーダー。だが、ドライブ中に若い黒人男性をはねてしまったことからすべてを失ってしまう。

 現実世界でもほどなくして、*マイケル・ミルケンが証券詐欺で起訴され、彼のクライアントであった投資家アイヴァン・ボウスキーがインサイダー取引で有罪になると、ジャンクボンド市場はあっという間に崩壊した。

 映画『ウォール街』(1987年)のマイケル・ダグラス演じる卑劣なブローカーは、このアイヴァン・ボウスキーをモデルにしている。

 同作での「Greed is good.(強欲は善だ)」という名セリフは当時賛否両論を呼んだ。富を手にする企業の乗っ取り屋が増える一方、犯罪者として晒される者もいたからだ。

「これ以降、ブローカーたちのスーツの生地やシルエットはかなりコンサバティブになった」とエベレストは語る。「派手なのはせいぜい裏地。胡散臭さを極力消し、“堅実で信頼できる”と見せる真面目なスタイルが主流になった」。

 80年代は贅沢や派手な浪費の一方、常にギリギリのバランスで成り立っている時代だった。エイズの脅威は大西洋の両側に及び、1985年までに米国だけで8000人もの命が奪われたが、レーガン政権はそれまでほとんどエイズという言葉を口にしなかった。

*マイケル・ミルケン=80年代にジャンクボンドの帝王として名を馳せた投資銀行家。強引な手法で敵対的買収やレバレッジド・バイアウトを蔓延させた。

本記事は2019年9月25日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 29

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