November 2019

-KEVIN HART-

全米一の人気コメディ俳優
ケヴィン・ハート

スタンダップ・コメディとコメディ映画の世界を破竹の勢いで征服してみせたケヴィン・ハート。彼が満を持して取り組むのは、ハリウッド屈指の主演俳優へと押し上げる、シリアスな役だ。彼の夢は、もう手の届くところまで来ている。
text tom chamberlin
photography dylan don
fashion direction grace gilfeather
styling ashley north
Special thanks to the Corinthia Hotel, London, and the Grenadier Guards

Kevin Hart / ケヴィン・ハートフィラデルフィア生まれ。ニューヨークのコミュニティ・カレッジを卒業後、フィラデルフィアのコメディクラブで活動を開始。2002年に『ペーパー・ソルジャーズ』で映画デビュー。大物俳優との共演を経て着実に俳優経験を積み重ねる一方、コメディアンとしての地位も確立。私生活では2度の結婚を経験し、3児の父親でもある。

ジャケット¥330,000、パンツ¥110,000 both by Dior(クリスチャン ディオール TEL.0120-02-1947)
シャツ、チーフ both by Budd Shirtmakers
タイ Edward Sexton

 少しでも無気力な生き方をしている人は、ケヴィン・ハートとして生きることを耐え難い運命だと思うかもしれない。彼が常に働いているからだ。まるで永久機関(外からのエネルギーを必要とせずに仕事をし続ける装置)のように、肉体に宿る凄まじいエネルギーと、アスリートのような身体、思慮深い心を持って自分の将来性を押し広げているように見える。俳優としても成功した現状を思うと、そんな姿勢に驚きを覚える。フォーブス誌によれば、彼は2018年に約5,700万ドルを稼いだというのだ。100万枚以上のチケットを売り上げた『ケヴィン・ハートのオレは無責任』のツアーが収入を押し上げているのは間違いない。

 ケヴィンに初めて会った人は少し戸惑うかもしれない。スクリーンの中でおなじみの、社交的な人物像を思い描いているからだ。ところが実際に会ってみると、当たりは柔らかいが実に控えめな人柄であることがわかる。きっと頭の中では、さまざまな目標がひしめいているのだろう。彼は徐々に経験を積みながら、華やかで大胆不敵でとてつもなく面白いキャラクターをコメディ界で定着させた。そのキャラクターがウィル・フェレルのウィットにも、ドウェイン・ジョンソンの圧倒的なカリスマ性にも引けを取らないとくれば、世界中の人々が彼を間近で見ることを夢見るのも当然である。

長年の積み重ねで摑んだ成功 非常に忙しい日々を過ごしているケヴィンだが、ここへたどり着くには問題に直面したときの対処法を長年をかけて見直す作業が必要だったという。彼がノース・フィラデルフィアで生まれたことは、不自由のない暮らしや将来への確かな見通しには結びつかなかった。生まれ育ったのは、“フッド(低所得者層地域)”と呼べるような場所だった。

「外へ出て初めて自分の育った環境が厳しいものだったと気づいたんだ。少年時代は精一杯努力するタイプではなかったし、いつも真面目に考えていなかった。僕が変わったのは、真面目でないと思っていた友達の誰もが、実は真面目だったと気づいたとき。みんな僕と違って、将来やりたいことや、計画をちゃんと考えていた。人は自分の愚かさや無知に気づくと、慌てて襟を正すものなんだ」

本記事は2019年7月25日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 29

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