Monday, November 18th, 2019

全米一の人気コメディ俳優
ケヴィン・ハート
-KEVIN HART-

スタンダップ・コメディとコメディ映画の世界を破竹の勢いで
征服してみせたケヴィン・ハート。彼が満を持して取り組むのは、
ハリウッド屈指の主演俳優へと押し上げる、シリアスな役だ。
彼の夢は、もう手の届くところまで来ている。
text tom chamberlin photography dylan don fashion direction grace gilfeather styling ashley north
Special thanks to the Corinthia Hotel, London, and the Grenadier Guards

 少しでも無気力な生き方をしている人は、ケヴィン・ハートとして生きることを耐え難い運命だと思うかもしれない。彼が常に働いているからだ。まるで永久機関(外からのエネルギーを必要とせずに仕事をし続ける装置)のように、肉体に宿る凄まじいエネルギーと、アスリートのような身体、思慮深い心を持って自分の将来性を押し広げているように見える。俳優としても成功した現状を思うと、そんな姿勢に驚きを覚える。フォーブス誌によれば、彼は2018年に約5,700万ドルを稼いだというのだ。100万枚以上のチケットを売り上げた『ケヴィン・ハートのオレは無責任』のツアーが収入を押し上げているのは間違いない。
 ケヴィンに初めて会った人は少し戸惑うかもしれない。スクリーンの中でおなじみの、社交的な人物像を思い描いているからだ。ところが実際に会ってみると、当たりは柔らかいが実に控えめな人柄であることがわかる。きっと頭の中では、さまざまな目標がひしめいているのだろう。彼は徐々に経験を積みながら、華やかで大胆不敵でとてつもなく面白いキャラクターをコメディ界で定着させた。そのキャラクターがウィル・フェレルのウィットにも、ドウェイン・ジョンソンの圧倒的なカリスマ性にも引けを取らないとくれば、世界中の人々が彼を間近で見ることを夢見るのも当然である。

長年の積み重ねで摑んだ成功

 非常に忙しい日々を過ごしているケヴィンだが、ここへたどり着くには問題に直面したときの対処法を長年をかけて見直す作業が必要だったという。彼がノース・フィラデルフィアで生まれたことは、不自由のない暮らしや将来への確かな見通しには結びつかなかった。生まれ育ったのは、“フッド(低所得者層地域)”と呼べるような場所だった。
「外へ出て初めて自分の育った環境が厳しいものだったと気づいたんだ。少年時代は精一杯努力するタイプではなかったし、いつも真面目に考えていなかった。僕が変わったのは、真面目でないと思っていた友達の誰もが、実は真面目だったと気づいたとき。みんな僕と違って、将来やりたいことや、計画をちゃんと考えていた。人は自分の愚かさや無知に気づくと、慌てて襟を正すものなんだ」
 何事にも必死で取り組む子供はめったにいない。成長していくうちに、集団の中で自分の価値を発揮できる分野を発見する。ケヴィンが発見したのは、周囲にユーモアを提供できるということだった。
「ひょうきん者でみんなをハッピーにさせることができた。同級生でも先生でも家族でもね。人はいつも相手に敬意を持って、自分ならこう扱ってほしいと思う方法で接するべきで、僕にとっては笑いがまさにそれだった。笑いこそが人を幸せな気持ちにさせる。間違いない方法さ」
 ただし、身近な人たちを笑わせるのと、*スタンダップ・コメディで観客を笑わせるのとではまったく違うということを、ケヴィンはすぐに思い知ることになる。舞台上でネタを披露するようになると、かなり不快な扱いにも対処しなければならなかった。フィラデルフィアのコメディクラブでは何度もやじり倒されたが、そのことで彼の決意は一層強くなった。
「思った通りの反応がもらえなかったとき、“あのネタはもうやらない”と決めるのは楽な選択。でも自分が追い求めるもの、つまり観客から笑いを引き出すために、さらにブラッシュアップを重ねるという険しい道を選ぶことが大切なんだ」
 彼は、諦めないという決意と、目標に到達しようという志を同時に持っていた。
「志は成果を目にすることで生まれる。人は何かに全力を尽くし、それが実際にうまくいくのを見て“もっと欲しい”と思う。それこそ僕がやみつきになっているもの。“マジかよ、これを手に入れるために頑張ってきて、ついに手に入れちまった”という成果。僕は“成果”にやみつきなんだ。そこまでに失敗もあるけれど、失敗が今の自分を形づくっているし、志や意欲を高めてくれた。夢見ていたことが手の届くところまで来たんだから」
『最‘狂’絶叫計画』(2003年)、『40歳の童貞男』(2005年)、『Mr.ボディガード/学園生活は命がけ!』(2008年)といった映画で彼が演じた小さな役は、大ヒット作に出演している今とはあまりにもかけ離れて見える。しかしこれは俳優にとって珍しいことではない。多くの俳優が、まず小さな役でキャリアを積むものだ。ただしケヴィンの場合は、これと並行してスタンダップ・コメディのネタを書き、披露し、たちまち人気芸へと高めることで頭角を現してきた。2014年は、彼の映画界への本格進出が成功した年といっていいと思うが、当時の彼は異なるスタンダップ・コメディショーを5つも世に出し、追加コンテンツまで生み出していたのだ。
*スタンダップ・コメディ = アメリカでポピュラーな漫談のスタイル。演者がマイク1本でステージに立ち、観客に向かってしゃべりかけるシンプルな話芸。

Kevin Hart ケヴィン・ハート
フィラデルフィア生まれ。ニューヨークのコミュニティ・カレッジを卒業後、フィラデルフィアのコメディクラブで活動を開始。2002年に『ペーパー・ソルジャーズ』で映画デビュー。大物俳優との共演を経て着実に俳優経験を積み重ねる一方、コメディアンとしての地位も確立。私生活では2度の結婚を経験し、3児の父親でもある。

ジャケット¥330,000、パンツ¥110,000 both by Dior
シャツ、チーフ both by Budd Shirtmakers
タイ Edward Sexton

ジャケット¥330,000、パンツ¥110,000 both by Dior
シャツ、チーフ both by Budd Shirtmakers
タイ Edward Sexton
パテック フィリップの時計(ブルーダイヤルの年次カレンダー5960P)は本人私物。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 29
1 2 3 4 5

Contents