June 2017

L’ART DE ‘ÇA PASSE OU ÇA CASSE’

CLAUDE LELOUCH

2016年は映画『男と女』が製作、日本で公開されてから50周年にあたる。
大胆さと繊細さで、映画における「フレンチ・タッチ」を築き上げた
クロード・ルルーシュ。その独特のエレガンスを探ってみよう。
text stuart husband

アカデミー授賞式でタキシードに身を包んでフレッド・アステアの隣に立つクロード・ルルーシュ。『男と女』は期日を過ぎていたにもかかわらずカンヌ映画祭の候補作に加えられグランプリを受賞、アカデミー賞やゴールデン・グローブ賞も外国語映画部門で獲得。一方で1975年創設のセザール賞だけ、ルルーシュはこれまで縁がない。

 映画『男と女』といえば、ちょっと旧い映画好きには条件反射のようなもので、「シャバダバダ…」のメロディが脳裏に浮かんでくる。それほどまでに、ルルーシュの長編作品すべてのサウンドトラックを担当してきたフランシス・レイが、50年以上前に作曲した甘いテーマ曲は鮮烈だ。この中年男女の恋愛メロドラマの他にも、彼の長編映画で知られた作品といえば、1968年のグルノーブル冬季五輪を記録映画とひと味違う体裁でまとめた『白い恋人たち』、または音楽と舞踏を軸に、4家族の戦前からチャリティ公演で合流するまでの運命を描いた『愛と哀しみのボレロ』が挙げられる。

 だが作品タイトルが醸し出す印象は切なく繊細ながら、クロード・ルルーシュ監督自身は、蛮勇を奮い立たせては騒音を撒き散らさずにいられない、大いなるリスクテイカーといえる。元より歯に衣着せぬ性質の彼は、近年はDVDの作品解説の他、自身の会社のホームページで、きわめて率直に過去の作品を語っている。

 撮影現場ではダウンジャケットやカウチンセーター、裾出しっ放しのシャツといういでたちで、しばしばキャップをかぶり、ヘッドホンとカメラを携えた彼の姿は、まるでティーンエイジャーのようだ。マスタングのボンネット上に腹這いになって、あるいは大統領を目の前に迎えても、ファインダーから目を外さず撮影に夢中の男、それがルルーシュだ。

 現在も、45本目となる長編を精力的に撮影中の彼は、自作品すべてのプロデューサーでもある。イヴ・モンタンやジャン=ポール・ベルモンド、リノ・ヴァンチュラといった超大物俳優らの大向こうを張って直接、出演交渉をしてきたのも、ほかならぬ彼自身だ。

 ルルーシュのリスクテイクぶりを端的に示すのは『ランデヴー』だろう。50周年を記念して『男と女』と同時に、デジタル・リマスターされ再び劇場公開される短編作品だ。パリの街中でクルマを全開で走らせ、約9分ものワンショットの長回しで収めた映像を、ルルーシュは「約束に遅れないため、無用なリスクを冒す男の物語」と説明する。

「免許没収は既定路線だったけど、期間はとくに決めていなかったからね」

 驚くルルーシュに署長は付け加えた。

「ウチの子も、きみのこの映画が大好きなのさ」

 まるで嘘のような、旧きよきフランスの逸話だが、ときに児戯じみた、無垢そのものの自由な態度は、子供すら魅了せずにいられない、そんな稀なエレガンスがクロード・ルルーシュにはある。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 13
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