THE BIG BANG
80年代狂騒曲
February 2020
パワースーツとブードゥー経済学を生んだ煌びやかなこの時代は
今、私たちが生きる現代の前触れだったのだろうか、
それとも放埒な時代の遺物だったのだろうか?
当時の記憶をたどってみよう。
エネルギーに満ちた時代 80年代がそれまでの数十年よりはるかに華やかだと実感したのは1985年のこと。ある夜、私はマンハッタンで“エリア”の行列をパスした。ABCというニューロマンティック・バンドの同行取材中だったため、行列を免れて入場できたのだ。
いくつかのVIPルームを通り過ぎるたびに私は、「あれはマドンナ?」「ウォーホル?」などと気を取られながら、同クラブのシンボル(=小さなサメでいっぱいの巨大水槽)の前で足を止めた。暗がりで起きるお祭り騒ぎに獰猛なサメが目を向ける様子は、何もかもが過剰な80年代を象徴するかのようだった―。
“エリア”はニューヨークの新たな熱気を象徴する人気のナイトクラブだ。80年代初頭に破綻寸前の状態から立ち直ったこの街では、新旧のドラッグや新興成金が火付け役となり、毎晩お祭り騒ぎが繰り広げられていた。80年代の原動力となったのはさまざまな“ビッグバン”である。
ロンドンのシティではマーガレット・サッチャー首相の主導で1986年に規制緩和が行われたことで、*ジョバーとブローカーの垣根がなくなり、シティの由緒あるマーチャントバンクが欧米や日本の大手銀行によって吸収合併された。これによって推定1,500万人のミリオネアが誕生し、新たなカルチャーが生まれた。
同じ頃、米国ではレーガン大統領が自由放任主義の経済政策や法人税の大幅減税、つまりレーガノミクスを推進していた。ペット・ショップ・ボーイズが『Shopping』(1987年)という曲で歌ったように、「街ではビッグバンが起こり、誰もが金儲けに夢中」な時代だった。
一方で、メディアにもビッグバンが起きていた。1980年にニック・ローガンが雑誌『The Face』を創刊し、その3年後に『Vanity Fair』が復刊。音楽やファッション、アート、金融、建築、デザイン、そして快楽主義的で起業家精神にあふれた世代がもてはやされた。
私もそんな業界の末端で、大学を出てすぐに音楽雑誌に携わった。そこではマーク・アーモンドからボーイ・ジョージ、バナナラマまで多彩なポップスターを取材したが、売れっ子の彼らは各メディアから過去最高のキスの相手を質問されることに喜びを感じているようだった。経費は膨れ上がり、取材旅行は急増し、レストランやクラブ、カクテルバーがこの新しいエリート集団をもてなすために続々と誕生した。
*ジョバー=証券取引所の場内売買人。
本記事は2019年9月25日発売号にて掲載されたものです。
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