The Rakish ART ROOM Vol.01
今買える、世界の名画 Vol.01
マルク・シャガール
July 2020
歴史と文化の継承者となることを意味する。
ひとりの画家と作品の魅力にフォーカスするこの連載。
第1回は、日本でも非常に人気の高いマルク・シャガールである。
La Bastille, etude
(ラ・バスティーユ、習作)亡命先のアメリカで愛妻ベラを喪いパリに戻ってきて描いた作品『ラ・バスティーユ』の翌年の習作。同じ年に制作された版画のもととなった作品と見られる。赤い牛は故郷ヴィテブスクの象徴であり、その胴体部分にパリのバスティーユ広場を描く。紙に油彩、グワッシュパネルによる裏打ち。51.1×65.8cm 1954年制作。ご購入のお問い合わせ:ザ・レイク・ジャパン info@therakejapan.com
マルク・シャガール / Marc Chagall(1887-1985)1887年、帝政ロシア領ヴィテブスク(現ベラルーシ)の敬虔なユダヤ教徒の家庭に生まれる。美術学校で学んだ後パリへ渡り、エコール・ド・パリの代表的な画家となる。人や動物、花束などのテーマを、自身の空想力を生かし、幻想的な絵画表現と美しい色彩で描いた。同郷の妻ベラを一途に愛し、また愛に関連する作品の多さから“愛の画家”とも呼ばれる。ⒸGetty Images
優美で豊かな色彩。柔らかくて流麗な事物を重ねてつくられる画面構成。ピカソやマティスらとともに20世紀を代表するタブローをものしたマルク・シャガールは、もちろん世界的な巨匠に違いないが、とりわけ日本にファンが多いことで知られる。モネやルノワールによって19世紀後半に展開された印象派の人気の高さと、どこか相通ずるところがある。なぜ印象派やシャガールは、日本人に強い共感をもたらすのだろうか。おそらくはその作品のなかに「儚さ」「切なさ」が色濃くあることに感応しているのだ。
日本では古くから、移りゆくことこそ常態であるという考えが人のあいだに深く浸透している。それは仏教的世界観と、気象条件や自然災害の多さなどの風土的要因から形成されてきた心性なのだろう。世は無常であり、愛でるべきは「もののあはれ」であるという考えが、長きにわたって保たれてきた。流れていってしまうものに束の間、目を留めて、それを慈しむ。そうした姿勢は印象派やシャガールの絵画からも感得できるのである。
本記事は2019年3月25日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 27