July 2021

The Rakish ART ROOM Vol.15

貴殿も世界の名画オーナーに!
アンリ・マティス

20世紀絵画の巨匠・マティスの、のびやかな線が広がる線描の世界。
描かれているのは、ニースの瀟洒なアトリエ。
text setsuko kitani
cooperation mizoe art gallery

火鉢のある室内¥12,000,000(税込価格)
1921〜1938年までマティスが拠点としたニース、シャルル=フェリックス広場1番地のアパルトマンのアトリエの風景を描いた素描。背景を覆う花模様のテキスタイルは、ポンピドゥー・センターが所蔵するこの時期のマティスの代表作《模様のある背景の装飾的人体》(1925-26年)などの背景にも用いられている。このように本作に描かれた布や中東の火鉢、陶器のピッチャーなどは、当時の彼の油彩画にしばしば登場し、またマティスのアトリエ風景を写した写真などでも同定することができる。《火鉢のある室内》1927年頃、紙に鉛筆 23.9×31.8cm お問い合わせは、ザ・レイク・ジャパン info@therakejapan.com まで

 フルーツが盛られたプレートや月の飾りの付いたイスラムの火鉢、その背景に広がる、花と植物のアラベスク―。20世紀の優れた色彩画家アンリ・マティスは、一般的には、鮮やかな原色を使った油彩による室内画や、晩年のカラフルな切り紙絵などが知られている。しかし素描や版画などモノクロの世界においても、完成度の高い作品を生み出してきた。

 オリエントの香り溢れる《火鉢のある室内》も、マティスの優れた素描家としての側面を垣間見られる1枚である。絢爛たる色彩の共演がなくとも、「人々を癒やす肘掛け椅子のような絵を描きたい」と言った彼の、優雅な画風は健在だ。

 1917年、第一次世界大戦で陸軍に入隊した長男ジャンに面会するために南仏の駐屯地に赴いたマティスは、体調を崩して静養したことがきっかけでニースに恋をした。地中海の青い海と彼の故郷北フランスのそれとは違う太陽の明るさに魅了され、マティスは早くも翌年より、夏はパリ、冬はニースで過ごすようになる。ニースではしばらく、コートダジュールを一望できるメディテラネ・ホテルを定宿としていたが、1921年、旧市街にあるシャルル=フェリックス広場1番地のアパルトマンにアトリエを構え、活動の拠点を本格的にニースに移した。

 このアトリエから生み出されたのが、本作である。当時マティスは、「オダリスク」(トルコの後宮に仕える女奴隷)をテーマとした連作を手がけ、白人の女性をモデルに、エキゾチックな裸婦像を集中的に発表していた。「オダリスク」を描くために、マティスがアトリエの一角に用意したのが、多種多様なテキスタイルで飾られたスペースで、モデルたちは、彼が若い頃から収集してきたテキスタイルに囲まれてポーズをとった。またここには、中東の火鉢や東洋の花瓶、トルコの椅子など、マティスが集めた異国の調度品も置かれていた。

本記事は2021年7月26日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 41

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Contents

<本連載の過去記事は以下より>

今買える、世界の名画 Vol.01 マルク・シャガール

今買える、世界の名画 Vol.02 ワシリー・カンディンスキー

今買える、世界の名画 Vol.03 モイーズ・キスリング

今買える、世界の名画 Vol.04 アンリ・マティス

今買える、世界の名画 Vol.05 パブロ・ピカソ

今買える、世界の名画 Vol.06 アルベルト・ジャコメッティ

今買える、世界の名画 Vol.07 クロード・モネ

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マルク・シャガール《聖書の光景》