Monday, July 8th, 2019

A SINGULAR WOMAN
唯一無二のトップ女優

今号でTHE RAKE初の女性表紙を飾るのは、
ハリウッド屈指のポジションを獲得している女優ジュリアン・ムーア。
彼女には力があるが、決して誇示しようとはしない。
だから常に第一線で活躍し続けることができたのだろう。
text tom chamberlin photography richard phibbs fashion direction grace gilfeather
 ニューヨークのウエスト・ヴィレッジにあるカフェ・クリュニーは、インタビューに最適な場所だ。色づいた窓は日よけで隠れ、ガールズトークに花を咲かせる女性たちで賑わう店内の様子はわかりにくく、活気溢れる雰囲気に溶け込んでしまうので、邪魔されずに話すことができる。だから、ジュリアン・ムーアはこの店を指定したのだろう。ここは彼女のお気に入りらしい。壁に彼女の似顔絵が飾ってあるところを見れば、あながち冗談でもなさそうだ。
 騎兵隊の将校を父に持つ私は、会話が滞らないように気の利いたジョークを用意し、気持ちを落ち着けて15分前から待機した。ところが、陸軍法務官を父に持つジュリアンもすぐに到着したので私の目論見は外れ、いつもの如く頼りない英国人ぶりを発揮してしまった。
 彼女はニューヨークの洗練された雰囲気になじんでいる。大きめのジャケットを羽織り、お洒落なニット帽とスカーフを身に着け、サングラスをかけた姿は、決して周囲に気づかれない。しかし、ジャケットや帽子を脱ぎ、サングラスを外すと、ラファエル前派の絵画を思わせるような美が現れ、スクリーン上で見慣れた親しみやすい笑顔が場を和ませる。

勉強好きだった子供時代
 ジュリアンの幼少期はまるで旅人のようだった。父が陸軍法務官だったため転勤が多く、アメリカ国内の都市を転々とした。引っ越しを繰り返すことで不安定になる子供は多いが、彼女は両親の影響を受けたことで客観性が養われた。
 特にスコットランド系の母は精神医学ソーシャルワーカーだったため、精神分析により主観をコントロールできる人で、ジュリアンの人生に多大な影響を与えた。子供の目から見ても有能でポジティブな存在だったという。
「両親とも行動的で素晴らしい人。何をするにも目的や自分の個性を大切にしていました。ふたりはいろんな経験を進んで受け入れていたように感じます。転勤生活は変化に富んでいましたが、子供の身で順応するのは大変でした。“ああ、またか”と思ったものです。でも、変わらぬものは何もないということを知ると、今やっていることが気に入らないならば変えられる、と考えるようになりました」
 教育も重要な役割を果たした。彼女は自他ともに認める“勉強好きの子”で、両親は医学か法律の道に進むと思っていたらしい。彼女を芸術の道に導き、言葉の多彩な運用力を培ったのは読書だった。
「本は生涯の友。昔から“言葉”が大好きなんです。演技がしたくて俳優になったわけではありません。演じることも、人前で話すことも、歌や踊りも苦手。でも読むことは大好きなので、向いていると思いました。ストーリーに入り込むのは私にとって身近なことで、芸術は最も共鳴できることでした。読者と同じように、観客はストーリーに感情移入するもの。だからこそ、自分の夢を見ているような気持ちにしてくれる映画には力があるし、映画というのは夢を見せなければならないものだと思います」
 ジュリアンはボストン大学で演技を学び、卒業後10年間は、オフブロードウェイの舞台やテレビドラマを中心に経験を積んだ。当時の自分には手厳しい。
「演じ方をわかっていなかった。楽しさは知っていましたし、ストーリーに入り込む感覚も好きでした。でも構成やセリフ、演技の大きさやトーンも理解していなかった。テレビでは、ある種のリアリティが求められるけれど、それが難しかったんです。それに声もひどかったですね。籠ったような硬い声で、実にお粗末でした」

Julianne Mooreジュリアン・ムーア
1960年ノースカロライナ州生まれ。ボストン大学卒業後、テレビや舞台に出演。1990 年に映画デビュー。一躍ハリウッドのトップ女優に。世界三大国際映画祭すべての女優賞を制覇した経験を持つ。アカデミー賞は5度目のノミネートとなった2014年の『アリスのままで』で主演女優賞を獲得。私生活では2003年に再婚した映画監督のバート・フレインドリッチとの間にふたりの子を持つ。

ジャケット¥226,000、パンツ¥122,000 both by Stella McCartney
左手人差し指のリング 「ペルレ クルール アントレ レ ドア リング」 18KYG×ダイヤモンド×マラカイト ¥795,000 Van Cleef & Arpels
左手薬指のリング property of Julianne Moore

THE RAKE JAPAN EDITION issue 27
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