May 2021

The Rakish ART ROOM Vol.14

貴殿も世界の名画オーナーに!
坂本繁二郎

フランス留学後、故郷に帰った坂本繁二郎が着手したテーマ。
それは九州の大地で力強く生きる馬たちの、美しく崇高な姿だった。
text setsuko kitani
cooperation mizoe art gallery

《白馬》同じモチーフを繰り返し描くことで知られた坂本は、東京時代は牛、フランス留学時代は人物や風景、帰国後の1930年代は集中的に馬を描いた。その後モチーフは能面などの静物へと移行し、最晩年は月を描くなど、その制作時期がわかりやすい画家である。モチーフが馬から静物になったのは戦時下になり、旅行もままならず、また本人の視力の低下なども原因に挙げられるが、後年も坂本は馬を描いた。本作も比較的後の時代に描かれたもの。その後眼の手術を受けた坂本の馬は、過去のスケッチや記憶をもとにした作品に変わり、より幻想的なオーラを帯びるようになる。《白馬》1945年、キャンバスに油彩 31.8×40.9cm(F6号)  ¥80,000,000(税込価格) お問い合わせは、ザ・レイク・ジャパンinfo@therakejapan.com まで

坂本繁二郎 / Hanjiro Sakamoto (1882-1969)明治から昭和にかけて活躍した洋画家。福岡県久留米市に生まれる。《海の幸》などで知られる青木繁とは幼なじみで切磋琢磨したが、青木早世後は、二科会の創立に参加し、39歳からは3年間のフランス留学も経験。帰国後は九州の八女に移りその地で亡くなった。独特なパステルカラーで馬や静物、月などを繰り返し描く姿勢は、「求道者」にもたとえられた。

 独特なパステルカラーで、馬や牛、静物を穏やかな静けさのなかに描いた画家・坂本繁二郎。明治浪漫主義の天才画家・青木繁の親友であったことでも知られる彼は、「日本人にしか描けない絵を描く」ことを目標に、黙々と制作し続けた孤高の画家である。

「絵の道は人の道である以上、人間の道と同じように無限の道です」と言っていた坂本は、まるで求道者のように同じテーマを繰り返し描いた。なかでも馬は、1930(昭和5)年、48歳頃より本格的に取り組んだ画題。以後毎年のように馬の絵を二科展に出品したことから、「馬の坂本」と言われるほどだった。

 1882(明治15)年、旧久留米藩士の父・金三郎と母・歌子の次男として生まれた坂本繁二郎は、紙があれば絵を描き散らし、自室の襖4枚を絵で真っ黒にしてしまうような、描くことが大好きな子供であった。そんな彼は10歳の頃、久留米高等小学校で図画教員をしていた洋画教師・森三美(みよし)に入門する。

 時は1892(明治25)年。日本人のほとんどが「洋画なるものが日本に或ることも知らず、画はすべて日本画」と思っていた時代である。この時初めて洋画に触れ、遠近法による奥行きのある画面を知った坂本少年は、「久留米周辺の野原が、光明に輝く自然の浄土」に一変するほどの衝撃を受けたと語っている。そしてこの頃、森の画塾に入ってきたのが、同級生の青木繁だった。

 以後、ふたりは絵画制作を通して切磋琢磨するのだが、早くに父と兄を亡くした坂本は、図画教師をして家計を支えねばならなかった。しかし上京して東京美術学校に学んでいた青木が帰省した折に、彼が東京で描いた作品を見て、坂本は東京行きを決意。20歳のときに上京して太平洋画会研究所などで学び、青木が早世した後にはフランスにも留学した。

 坂本が繰り返し描いた馬は、彼が帰国後に手がけたテーマである。1924(大正13)年、42歳のとき、約3年間のフランスでの生活を終えて帰国した坂本は、東京ではなく故郷の久留米へと直行する。以後1930年代を通して彼は馬を描くことになるのだが、草原を駆け巡る馬ではなく、駄馬ばかり描いていたためか「坂本の描く馬は病気にかかっているから使いものにならない」などと陰口をたたく者もいた。それに対して坂本は「実際の馬は病気をするが、私の馬は死なないよ」と応えたという。

 坂本が馬を通して描こうとしたのは、目の前にある馬そのものの精緻な描写ではなく、真摯に対象と向き合ったときに初めて見えてくる「永遠性」や「普遍性」だったといえるだろう。

本記事は2021年5月25日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 40

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<本連載の過去記事は以下より>

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