Saturday, July 11th, 2020

The Rakish ART ROOM Vol.01

今買える、世界の名画 Vol.01
マルク・シャガール

text hiroyasu yamauchi cooperation mizoe art gallery

アトリエで制作に取りかかるシャガール。(1959年)

 印象派がなそうとしたのは、一瞬の光を捉えて、それを絵画にしてしまおうということだった。それ以前の絵画は、誰もが知る出来事や人物、場所などをテーマに据えて、あたかも目の前にそれらがあるように臨場感溢れるかたちで描けるかどうかに腐心していた。印象派は根本から、絵画の描き方や目指すところを変えてしまった。歴史的に有名な、意味あるものには目を向けない。今ここで生きている自分の目の前にある事物、それを照らし出している光だけを注視して、絵画へと落とし込んでいったのだった。降り注ぐ光は刻々と移り変わり、同じことは決して繰り返されない。一回性のあるものがキャンバスに定着され、それを観る側には「儚さ」や「切なさ」を想起させることとなった。日本人の気持ちを印象派ががっちりつかんで離さないのは、そうしたところに原因がある。

 シャガールは、一瞬の光をモチーフにしたわけではないが、誰もが知る事物をリアルに描き出そうとしていないところが印象派と共通する。彼がよく描いたのは、自分自身の郷愁の世界だった。今ここにあるものではなくて、かつて自らが愛してやまなかった世界からモチーフを引っ張り出し、キャンバスへと定着させていくのだ。シャガールの画面は夢見るような色彩に覆われており、人や乗りものは空に浮かび、混沌としつつも愉しさに溢れ、同時にすべては過去に属するものであるから郷愁に満ち満ちている。既にここにはないから思い出なのであって、幼少期や若かりし頃の記憶ほど「儚さ」や「切なさ」を連れてくるものもほかにない。日本人が大好きな、儚く切ない心象を、印象派やシャガールはどんぴしゃりと突いてくる。だからこれほどの人気を博すのであろう。

本記事は2019年3月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 27

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Contents

<本連載の過去記事は以下より>

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今買える、世界の名画 Vol.07 クロード・モネ

今買える、世界の名画 Vol.06 アルベルト・ジャコメッティ

今買える、世界の名画 Vol.05 パブロ・ピカソ

今買える、世界の名画 Vol.04 アンリ・マティス

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今買える、世界の名画 Vol.02 ワシリー・カンディンスキー