Thursday, July 4th, 2019

WHEN TO PROVOKE IS TO LIVE
唾棄すべきもの、そしてフランスの宝

セルジュ・ゲンズブールは、20世紀におけるフランスの巨人だ。彼は自らを“怪物じみた醜男”と呼んだ。
にもかかわらず、彼は当時を代表する美女たちと次々に恋愛関係になり、古臭いブルジョワたちに文化的衝撃を与えた。
text stuart husband
 最近のインタビューで、ジェーン・バーキンはセルジュ・ゲンズブールとの初デートの様子を語った。ふたりが1969年の映画『スローガン』の撮影で出会ったとき、彼は40歳、彼女は22歳だった。「彼は私にほとんど話しかけてこなかったし、なんて尊大な人なのかしらと思ったわ」と彼女は回顧した。「すると監督が、夜に一緒に出かけてみてはと提案したの。私たちはディナーに行き、次にクラブへ行った。私は彼をダンスフロアへ引っ張り出したわ。私のつま先を何度も踏んでしまう彼を見て、向こう見ずな仮面の下に隠れた、驚くほど内気な彼の姿に気がついた。それで彼にひどく興味を覚えたわ。それから彼は私をラスプーチン・クラブへ連れて行って、ミュージシャン全員にシベリウスの『悲しきワルツ』を演奏させた。彼は『ヤツらは俺と同じ売春野郎だ』と言いながら、彼らに100フラン紙幣を投げた。次に訪れた別のクラブでは、男性たちが揃って女装をしていたわ。すると驚いたことに、皆がセルジュの額にキスしながら『ああ、可愛い坊や』と言うの。彼のお父様はキャバレーの演奏家だったから、皆が彼のことを小さい頃から知っていたのね。もう午前4時になっていたから、ふたりでヒルトンホテルへ戻ると、フロント係の方が『いつものお部屋ですか、ムッシュー・ゲンズブール?』と聞いたの。私はしまったと思ったけれど、セルジュはすぐに眠ってしまった……」
 このピカレスク風のエピソードは、ゲンズブールの持つ多彩な面を表している。彼がいかがわしく、人を刺激するタイプだったのは間違いないが、あどけなくシャイでもあったのだ。音楽家、画家、俳優、監督、愛煙家、大酒飲み、ロマンチスト、プレイボーイ、そして国家の宝……。
 この20世紀のフランスの巨人は、“怪物じみた醜男”を自称していた。突き出た耳と、カメのような目と、大きなかぎ鼻の持ち主だった。「美形より不器量なほうがよい。不器量さは長持ちするからだ」とうそぶいた。ところが彼は、ブリジット・バルドー、ジュリエット・グレコ、カトリーヌ・ドヌーヴといった当時を代表する美女たちと次々と恋愛関係になった。
 彼はハイ・カルチャーとロー・カルチャーを平気で組み合わせた。例えばショパンのエチュードのロマンチックな調べを、遠洋船やトラックの運転席や、その他もろもろの場所でセックスすることの喜びを表現する歌にアレンジした。
「彼はきっちりと税金を払う、潔癖でお堅い人だった。彼が真っ裸でいるところを見たことがなかった」とバーキンは言う。そのくせ彼の最も有名なヒット曲は、オルガスムを連想させ、BBCやバチカンが放送禁止にした『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』なのだ。彼はボードレール、バイロン、ジョニー・ロットン、スティーヴン・ソンドハイム、ベニー・ヒルが混ざり合ったような人だった。「俺は凡庸にはなれない」と言いながら、「俺はすべてに成功したが、人生には失敗した」などと言う人だった。
 ゲンズブールは、1928年にリュシアン・ギンズブルグという名でパリに生まれた。両親は1919年に帝政ロシアから逃れてきた。姉ジャクリーヌは「私たちは美を重んじる家で育てられました。絵画、音楽、文学、そして前衛芸術― 私たちはショパン、ストラヴィンスキー、ラヴェルを聴かされました」と語った。
 軍隊に入った20歳のときに喫煙と飲酒を始めた。除隊後、フランス芸術アカデミーに通ったが、結局は「画家の自由奔放な暮らし」を捨ててシンガーソングライターとなり、名前をロシア風のセルジュに変えた。
 1965年、18歳の典型的イエイエ・ポップ歌手であったフランス・ギャルが、ゲンズブールの作った『夢見るシャンソン人形』を歌い、大ヒットとなった。歌詞がほのめかしていたのは、文字通り彼女は“操り人形”ということだった。さらに新曲として提供した『アニーとボンボン』では、“あの小さな棒が舌の上に乗って、極楽気分になる”と歌わせた。「俺にとって、挑発は酸素だ」と彼は言い放った。
 数年後、ゲンズブールは19歳のブリジット・バルドーに夢中になった。ドイツ人実業家ギュンター・ザックスとの結婚生活がぎくしゃくしていたバルドーは、ゲンズブールとデートすることに同意した。ゲンズブールは非常に畏縮したといわれている(彼はのちに「彼女の胸が怖かった」とバーキンに告げている)。

ジェーン・バーキンとセルジュ・ゲンズブールの出会いのきっかけとなった1969 年公開の映画『スローガン』より。

Serge Gainsbourgセルジュ・ゲンズブール
1928 年パリ生まれ。フランスの作曲家、作詞家、歌手、映画監督、俳優。フランス・ギャルが歌った『夢見るシャンソン人形』(1965年)を皮切りに、数々のヒット曲を制作する。ジュリエット・グレコ、ブリジッド・バルドー、ジェーン・バーキンをはじめとする華麗なる恋愛遍歴でも知られている。1991年没。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 27
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