Thursday, July 4th, 2019

WHEN TO PROVOKE IS TO LIVE

唾棄すべきもの、そしてフランスの宝

セルジュ・ゲンズブールは、20世紀におけるフランスの巨人だ。彼は自らを“怪物じみた醜男”と呼んだ。
にもかかわらず、彼は当時を代表する美女たちと次々に恋愛関係になり、古臭いブルジョワたちに文化的衝撃を与えた。
text stuart husband
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Serge Gainsbourg / セルジュ・ゲンズブール1928年パリ生まれ。フランスの作曲家、作詞家、歌手、映画監督、俳優。フランス・ギャルが歌った『夢見るシャンソン人形』(1965年)を皮切りに、数々のヒット曲を制作する。ジュリエット・グレコ、ブリジッド・バルドー、ジェーン・バーキンをはじめとする華麗なる恋愛遍歴でも知られている。1991年没。

 最近のインタビューで、ジェーン・バーキンはセルジュ・ゲンズブールとの初デートの様子を語った。ふたりが1969年の映画『スローガン』の撮影で出会ったとき、彼は40歳、彼女は22歳だった。「彼は私にほとんど話しかけてこなかったし、なんて尊大な人なのかしらと思ったわ」と彼女は回顧した。「すると監督が、夜に一緒に出かけてみてはと提案したの。私たちはディナーに行き、次にクラブへ行った。私は彼をダンスフロアへ引っ張り出したわ。私のつま先を何度も踏んでしまう彼を見て、向こう見ずな仮面の下に隠れた、驚くほど内気な彼の姿に気がついた。それで彼にひどく興味を覚えたわ。それから彼は私をラスプーチン・クラブへ連れて行って、ミュージシャン全員にシベリウスの『悲しきワルツ』を演奏させた。彼は『ヤツらは俺と同じ売春野郎だ』と言いながら、彼らに100フラン紙幣を投げた。次に訪れた別のクラブでは、男性たちが揃って女装をしていたわ。すると驚いたことに、皆がセルジュの額にキスしながら『ああ、可愛い坊や』と言うの。彼のお父様はキャバレーの演奏家だったから、皆が彼のことを小さい頃から知っていたのね。もう午前4時になっていたから、ふたりでヒルトンホテルへ戻ると、フロント係の方が『いつものお部屋ですか、ムッシュー・ゲンズブール?』と聞いたの。私はしまったと思ったけれど、セルジュはすぐに眠ってしまった……」

 このピカレスク風のエピソードは、ゲンズブールの持つ多彩な面を表している。彼がいかがわしく、人を刺激するタイプだったのは間違いないが、あどけなくシャイでもあったのだ。音楽家、画家、俳優、監督、愛煙家、大酒飲み、ロマンチスト、プレイボーイ、そして国家の宝……。

 この20世紀のフランスの巨人は、“怪物じみた醜男”を自称していた。突き出た耳と、カメのような目と、大きなかぎ鼻の持ち主だった。「美形より不器量なほうがよい。不器量さは長持ちするからだ」とうそぶいた。ところが彼は、ブリジット・バルドー、ジュリエット・グレコ、カトリーヌ・ドヌーヴといった当時を代表する美女たちと次々と恋愛関係になった。

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ジェーン・バーキンとセルジュ・ゲンズブールの出会いのきっかけとなった1969年公開の映画『スローガン』より。ゲンズブール演じる広告業界で働くセルジュと、バーキン演じるエヴリンの儚い恋愛を描く。ピエール・グランブラ監督がフラレソワ・トリュフォー監督のアドバイスで自身の失恋を映画化したという。60年代のファッションを愛でるアイコンムービーだ。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 27
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