August 2021

HERMÈS LE CUIR
エルメスの革の物語 第1回

エルメスの道具、そして作られるもの

エルメスのバッグは美しさと耐久性で知られるが、その背景には膨大なサヴォワールフェール(職人技)と創造性が横たわっている。

エルメスの工房で実際に使われている半月型ナイフ。厚みのある革を直線にカットするのに使う。職人の手にかかると、まるで魔法のような切れ味を見せる。これは1823年創業のパリの老舗、ヴェルジェ・ブランシャール社のもの。

 馬具製造から皮革製造へ、エルメスのものづくりの中心にはいつも革があった。1837年にパリで創業して以来、エルメスは馬の自由な動きを妨げずエレガントに見せる、頑丈で繊細な馬具を作ってきた。乗馬の世界をルーツとするエルメスのサヴォワールフェール(職人技)と創造性を今もなお導いているのは、自然界に敬意を払い、洗練されたラインとフォルムに価値を置くメゾンの哲学である。

 20世紀初頭、自動車と大西洋横断の船旅の時代の幕が開き、皮革製品部門はエルメスの多角化を真っ先に担うメチエ(部門)となった。エルメスはたえず激動する世界のあり方に適応し、自由を得た男女の新たな要求に応えた。バッグ《オータクロア》、《ボリード》(当時は自動車用バッグと呼ばれていた)、《ケリー》といった新しいクリエイションとともに、メゾンのスタイルが形づくられていった。

 高貴な素材へと変容したエルメスレザーは、オブジェ(製品)であると同時に、芸術作品でもある。エルメスの根底にある手仕事の文化は、人間性を核とした感性の追求を体現するものであり、また、この世界を理解するひとつの手がかりとなっている。

 用と美を結びつける革仕事の流儀は、エルメスのアイデンティティそのものを反映している。この機能性、使いやすさを備えたフォルムが、美しさへの満足度をさらに高めている。皮革デザイン部門が抱える15人ほどの職人は、デザインが制約されることのないように、常にサヴォワールフェールの限界を押し広げ、素材の研究を重ねている。

本記事は2021年5月25日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 40

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Contents

<本連載の過去記事は以下より>

エルメスの幸せな職人たち