September 2021

HERMÈS LE CUIR
エルメスの革の物語 第2回

エルメスの幸せな職人たち

メゾンとしてのエルメスの根幹にあるのは職人とそのサヴォワールフェール(職人技)である。
彼らが何を求められ、どうやって一人前になっていくのかを見てみよう。

完璧なサドルステッチはメゾンの秘密の技。1本の糸の両端にそれぞれ針を通して縫う方式は、高い耐久性を約束する。品質にばらつきがないように、フランス国内で撚り合わせた麻糸だけが使用される。麻糸には蜜蝋をコーティングして耐久性を保証している。

 エルメス家の6世代目が率いるエルメス社は1837年の創業以来、毎年職人を育成している。エルメスは、馬具製造から皮革製品製造へ、技術と礎(いしずえ)はそのままに、ものづくりを発展させてきた。創業以来、“与えられたものをお返しする”という、この継承の哲学がメゾンの核となっている。

 エルメスのオブジェは、正確で巧みな身のこなしから生まれる根気強さ、手に宿る知性がたゆまず進歩させてきた知識に裏打ちされている。記憶の素材である革は、時間と自然資源を尊重し、責任を持って加工される。エルメスの根底にある手しごとの文化は、人間性を核とした感性の追求を体現するものであり、また、この世界を理解するひとつの手がかりとなる。

美しいものは美しい環境から 美しいオブジェ(製品)をつくるためには、美しい環境で仕事をすべき、というのがエルメスの哲学だ。ヒューマンスケールの工房とアトリエ、対等で親密な人間関係がその基本にある。エルメスの皮革アトリエは、周囲の環境に溶け込むように設計されている。建築様式と建材は風景と調和が保たれている。

 例えば、2015年に開業したシャラント県のモンブロンに位置するタルドワール皮革アトリエは、落ち着いた作業環境で自然と一体化している。アトリエは大きなガラス窓に覆われ、景観を一望できる。手しごとに欠かせない自然光の採光には、細心の注意が払われている。食堂はテラスに面して開かれ、背後には渓谷の風景が広がっている。

本記事は2021年7月26日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 41

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Contents

<本連載の過去記事は以下より>

エルメスの道具、そして作られるもの