February 2024

The siren’s call:how Brigitte Bardot redefined female sexuality

女優:ブリジット・バルドー
セイレーンの呼び声

彼女はまるで、当時の重苦しい空気を吹き飛ばす、一陣の爽やかな風だった。フランス初の世界的大スターは、“セクシーな子猫”の役を見事に演じ、それを体現してみせた。彼女の非凡な人生と多彩な恋愛遍歴にスポットを当てる。
text nick scott
issue10

『素直な悪女』(1956年)の有名なダンスシーン。

 映画史上最もセクシーなシーンは、何だろう?

 1973年のサイコスリラー『赤い影』でドナルド・サザーランドとジュリー・クリスティが演じた、ヴェネツィアでの激しい交わりもいいが、ベストではない。2010年の『ブラック・スワン』でミラ・クニスとナタリー・ポートマンが見せた、女性同士の密会も違う。『イディオッツ』でラース・フォン・トリアーが描いた性の饗宴でもなければ、『つぐない』でキーラ・ナイトレイとジェームズ・マカヴォイが熱演した、本棚にもたれたまま絡み合う場面でもない。

 映画フィルムに残る最もセクシーなシーンは、ヌードやセックスとは無縁なのだ。BGMもテナー・サックスが奏でるなまめかしい曲などではなく、激しく打ち鳴らされるボンゴのリズムだ。

 ご明察の通り、私が思い浮かべているのは、『素直な悪女』に出てくる有名なダンスシーンである。舞台は1950年代のサントロペ。奔放な性を謳歌する若き孤児に扮したのは、ブリジット・バルドーであった。バルドーは男たちのために、テーブルの上でダンスする。素足で髪を乱し、スカートを激しく揺らしながら、溢れんばかりの色気を全身から放つ。

 このシーンを演じられたのは、きっとバルドーだけだった。彼女がいなければ、あの映画は成功しなかったはずだ。バルドーの輝くような性的魅力は、彼女だけのものだからだ。

 確かに彼女は前歯に隙間があったし、口をとがらせていると、その横顔はちょっとツンケンしているように見えた。だが、こうした外見上のわずかな欠点は、猫のような目、ふわりと風に舞う髪、ふっくらとした唇といった、セクシーな部分をさらに際立たせた。パリ音楽院でのバレエレッスンによって鍛えられたボディも、彼女の強力な武器だった。

新しいセックスシンボル「世の中には美女がゴマンといますが、バルドーは別格です。それは彼女にしか持ち得ない、独特の美です」と、キングス・カレッジ・ロンドンの映画学教授、ジネット・ヴァンサンドーは語る。

「バルドーは当時、旧習を打破してタブーを犯す、掟破りの存在でした。そして女性解放の象徴でもありました。彼女の場合、それは主に性的な解放を意味しましたが、女性の解放は他の分野でも始まっていました。バルドー自身はフェミニストではありませんが、フェミニストの原型といえる人物です。セックスシンボルでありながら、自らの欲望に正直でもありました。強烈な個性を持ち、自分の欲しいものを何でも手に入れ、しかも男性を喜ばせる方法をも知っていました」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 16
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