July 2023

ART OR SEDUCTION?

純愛か、淫行か? ジョン&ボー・デレクの物語

当時16歳だったカリフォルニアの少女は、46歳の中年男に言い寄られた。彼女は彼にとって4人目の妻となり、25年後に彼が亡くなるまで添い遂げた。彼らの恋の炎を燃やし続けたものは何だったのか、THE RAKEが考察する。
text nick scott

John & Bo Derek / ジョン&ボー・デレクジョン・デレク(右)は1926年生まれの映画俳優。『暗黒への転落』(1949年)ではハンフリー・ボガートの相手役を務める。後にカメラマン、監督に転身する。1998年没。ボー・デレク(左)は1956年生まれ。ジョンの妻。映画『テン』(1979年)にて完璧な女性として登場し、一大センセーションを巻き起こした。

 ジョン・デレクは「スヴェンガリ」として知られていた。スヴェンガリとは、ジョージ・デュ・モーリアによる1894年の小説『トリルビー』に登場する催眠術師である。作品中、スヴェンガリは幼いたいけ気な少女に催眠術をかけ、彼なしでは何もできないようにしてしまう。

 ジョン・デレクはボー・デレクにどんな術をかけたのだろうか? そのたくましい顔立ちや、映画スターから監督や写真家に転身した経歴はさておき、30歳も年上であるにもかかわらず、夫になったばかりか、彼女の精神面や女優としての活動も支配したのだ。

 1926年、デレク・ハリスはハリウッドに生まれた。父はサイレント映画の製作者ローソン・ハリス、母は映画女優のドロレス・ジョンソン。マチネー・アイドル的な容姿で若い頃から美男として知られていた。

 映画プロデューサーのデヴィッド・O・セルズニックは彼に目をつけ、『君去りし後』(1944年)でシャーリー・テンプルの恋人役をやらせたり、『戀(こい)の十日間』で水夫を演じさせたりしたが、やがて第二次世界大戦が始まり、彼は徴兵されてしまった。

 戦後、彼の名前をジョン・デレクと改名させたのはハンフリー・ボガートであった。そしてボガート主演の映画『暗黒への転落』(1949年)にて、ニック・ロマーノ役として起用した。デレクの演技は、『ニューヨーク・タイムズ』紙に「明らかに少女たちのためのアイドルでしかない」と評された。同年公開された『オール・ザ・キングスメン』でもその評価は変わらなかった。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 51
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