Thursday, April 18th, 2019

WILL&TESTAMENT
稀代の怪優ウィレム・デフォー

どんな役にもはまる理由

 1990年代以降もデフォーは多才ぶりを発揮した。『ワイルド・アット・ハート』(1990年)では、歯の状態が悲惨で不快なキャラクターを演じ、『今そこにある危機』(1994年)ではCIA諜報員に扮し、『処刑人』(1999年)では洞察力に優れた捜査官役を務めた。『アメリカン・サイコ』(2000年)では、きざな探偵として無駄を削ぎ落とした演技をし、主演のクリスチャン・ベイルを巧みに際立たせた。そして同年の『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』で、2度目のアカデミー助演男優賞ノミネートを果たした。
 ほどなくしてデフォーは大役を獲得する。当時史上7位の興行収入を記録した『スパイダーマン』(2002年)は、トビー・マグワイアのキャリアに弾みをつけ、アクションシーンに無限の可能性をもたらすCG時代の幕を開いた。デフォーが演じたのは、スパイダーマンと敵対するグリーン・ゴブリンだ。愛する人を失い二重人格となった悪意を宿す実業家で、デフォーのシャープな顔立ちと凄みのある薄笑いがぴったりのはまり役だった。
 2000年代前半には他にも多数の出演作がある。声優として参加した『ファインディング・ニモ』(2003年)や、マーティン・スコセッシ監督の『アビエイター』(2004年)、初めてウェス・アンダーソン監督とタッグを組んだ『ライフ・アクアティック』(2004年)もこの時期の作品だ。アンダーソン監督作では他にも『ファンタスティック Mr.FOX』(2009年)で声優として出演し、『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年)では無口な私立探偵役を演じた。デフォーは監督との関係について、こんな風に話す。
「自分は(ウェス・アンダーソン監督の)一座の一員だと思っているけれど、実は彼の作品で特に大きな役をやったことはない。だから重要性が低いというわけではないけれど。ウェスとも、ポール・シュレイダーとも、アベル・フェラーラともそういう深い間柄だ。僕はひとつの劇団で、同じ監督と27年間一緒に仕事をした男だからね。人との関わりを求めているといっても、やはり基本的な部分で心の通じ合える人たちや、興味のある文化のそばに身を置くのが好きなんだ」
 こうした関係がいかにうまく機能するかを示す先例がある。トム・ハンクスとスティーヴン・スピルバーグ、サミュエル・L・ジャクソンとクエンティン・タランティーノ、ジョニー・デップとティム・バートンなどだ。彼らの場合、波長が合うおかげで両者のビジョンが実現するように感じられるが、デフォーの場合も同様だ。
「一緒に仕事をするのが好きな相手というのは、多くを語らなくても理解し合えるし、力を合わせることで両者の才能が大幅に強化される。重なる部分が多いほど、監督が何かに挑戦しようとしているときに僕も一緒に進みたいと思うんだ」

ハリウッドに必要とされる存在

 2017年の『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』で3度目のアカデミー助演男優賞ノミネートを果たしたデフォーは、歩みを緩める気配はまったくない。2019年も出演作が目白押しだ。公開中の『アクアマン』は、DCコミックス原作によるアクション大作であり、おそらく最も期待されている作品だ。こうしたヒーローもの映画では得てしてそうだが、出演者たちは多くを語りたがらない。
「実は僕もまだ見ていないから楽しみだよ。技術的効果が多いから、ポストプロダクションにとても時間がかかるんだ。何しろ、水中にある創作世界が舞台になっているからね。役者は浮いたり回転したりする装置に乗って大変なんだ」
 キャラクターについてはこう語る。
「僕が演じるのは、戦士であり、政治家のような立場でもあるバルコ。ほんの少しだけネタバレすると、アクアマンの先生のような存在だよ。僕は海底アトランティス帝国出身の海底人で、アクアマンは海底人と人間の混血さ。お話しできるのは、ここまでだよ(笑)」
「#MeToo」運動を受けて、現在のハリウッドは立ち直りを図るとともに、影の側面があることを認めつつある。そんな“脱理想化”を進めるハリウッドに、以前から変わらずに尊敬できるデフォーのような優れたリーダーがいることは幸運だ。淀んだ空気の中で、ウィレム・デフォーの良識ある振る舞いや、演技に一心に取り組む姿勢は、映画産業に成長をもたらす力強い息吹となり、新世代の俳優たちへの指針となる。デフォーが生涯功労賞を受賞した昨年のベルリン国際映画祭で、ヴィム・ヴェンダース監督はこう述べた。
「すべての俳優は個性的ですが、ウィレム・デフォーはそれ以上です。皆が比類のない存在ですが、彼はさらにその上をいく。“独特”ですが、その言葉すらはるかに超えています。世にふたりといない存在……つまり彼は唯一無二の人であり、俳優であり、人間なのです」

ジャケット 参考商品 Giorgio Armani
ニット 参考商品 Gieves & Hawkes

<注目の公開待機作品>

精神を患い苦しんでもなお筆を握り続けた画家、フィンセント・ファン・ゴッホ。周囲と真っ当な人間関係を築けずに衝撃的な事件を起こした、彼のあまりにも不器用で孤独な人生を、ウィレム・デフォーが圧巻の演技力で挑んだ珠玉の感動作。監督に「彼しか考えられなかった」と言わしめたデフォーは、第75 回ヴェネチア国際映画祭男優賞を受賞。第76 回ゴールデングローブ賞で主演男優賞(ドラマ部門)にノミネートされた。

永遠の門 ゴッホの見た未来
監督:ジュリアン・シュナーベル
出演:ウィレム・デフォー、オスカー・アイザック、マッツ・ミケルセン、マチュー・アマルリックほか
配給:ギャガ、松竹 2019年全国ロードショー
©Walk Home Productions LLC 2018

THE RAKE JAPAN EDITION issue 26
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