Tuesday, July 2nd, 2019

今、最も注目したいテーラー、
“SARTORIA CICCIO”に聞いた
100%失敗しないオーダーの心得Q&A

今、日本で最も注目されているサルトのひとつが“サルトリア チッチオ”だ。
その店主、上木規至氏に、オーダーの心得を聞いてみた。
どうすれば最高の仕立て服が作れるのか、根掘り葉掘り尋ねてきた。
photography tatsuya ozawa

Noriyuki Ueki
上木規至

1978年生まれ。イタリア、ナポリの有名サルト、ダル クオーレやアントニオ・パスカリエッロなどで修業した後、2006年に帰国、タイ ユア タイ青山内に工房を持つ。2015年、自身のテーラー、サルトリアチッチオを開く。ナポリ・スタイルに礎を置きつつ、日本人らしい緻密さを併せ持つ
仕立ては、唯一無二のもの。国内はもちろん、海外にも多くのファンを持つ。

100%失敗しないオーダーの心得Q&A 心得編
オーダーとは何か、を知る

Q1:そもそも仕立て服のよさとは何か?
A:「当たり前ですが、自分の好きな生地で、体に合ったものができることです。合っているというのは、具体的には、首と肩回りがフィットしているということです。この部分がオーダー服のハイライトで、首の裏で服を支えるから、着心地もいいのです」

Q2:自分にとって、最良のテーラーに出会うための近道は?
A:「自分がどういう服を作りたいか、自分の中で明確にすることが大切です。雑誌を見たりして自分の好みをはっきりさせる。店に行って『モノだけ見せてくれ』というのも“あり”ですね。実際にそういうお客様もいますよ。そして心から好きだと思える形のところで作るのがいいでしょう。テーラーには、本来向き不向きがあります。例えば、ウチで『ブリティッシュなジャケットを作ってくれ』と言うと、できないことはありませんが、これは私のフィルターを通したブリティッシュになってしまいます」

Q3:テーラーには、どこまで希望を伝えていいものか? どこからおまかせするべきか?
A:「基本的には全部伝えていいと思いますが、どれだけ形になるかは別問題です。オーダー服は、買い手と作り手が一緒になって考える作品のようなもの。作り手も、『ウチはこんなテイストです』と主張することもあります。ヨーロッパのテーラーは、そういう店が多いですね。逆に何でも言うことを聞いてくれるテーラーでは、失敗する可能性が高いと思います」

Q4:陥りやすいオーダーでの失敗とは?
A:「あまり自分の意見を押しつけるのはよくないと思います。お互いにひとつのモノを作り上げていくという姿勢が大切です。例えば、以前私のところに某社のジャケットを持ってきて『コレと同じモノを作ってくれ』と言われた方がいましたが、それならそこで作ればいいわけです。最近では、そいういったことを理解される方が増えて、ほぼ8割の人に『ハウススタイルで』と言っていただけるようになりました」

Q5:チッチオのハウススタイルとは、どういったものか?
A:「柔らかくて軽いことが基本です。細すぎずゆとりがある“中庸”で上品な服を作りたいと思っています。カッティングの基本は、ナポリ流ですが、ディテールには独自のものを取り入れています。フロントダーツがポケットを突き抜けて一番下まで通っており(ミラノ流はフロントダーツがサイドポケットで止まり、フィレンツェ流はダーツがない)。細腹(ジャケット横の帯状のパーツ)もありません。肩パッドはなし。あったほうがいろいろ簡単なのですが、なくてもフィットさせることは可能です。ノーベントなのも特徴です。そのほうが後ろ姿がエレガントに見えると思うからです」

Q6:とにかく着心地のいい服を作りたい
A:「実は、そういったリクエストを受けることは希です。そもそもお客様は、着心地がいいことを前提にオーダーされていると思うのです。着心地とは肩のフィットにかかってきます。首回りが上手く合っていると、腕も動かしやすく、ストレスがありません。ただし、既製服の“軽い”とはやや意味が違うかも知れません。着心地がいい仕立て服とは、首と肩が合っていて、スッと包まれるようなイメージです。既製服の軽いものは、カーディガンのような感じですかね」

Q7:採寸時に気を付けることは? 何を着ていったらいい?
A:「採寸のときは、特に何をというのはありません。ジーンズにTシャツでもOKです。厚手のセーター1枚では困りますが……(笑)」

Q8:仮縫い時にチェックすべきポイントは?
A:「仕立てる服を着るときをイメージして、同じアイテムを着てきてください。タイ、シャツ、靴などです。例えばネクタイをするかしないかだけで、スーツのフィット感は変わります。特に夏場に秋冬ものをフィットする場合、ノータイで来られる方が多いのですが、ノータイだと概してフィットは緩く感じます。タイをすると『あ、ちょうどいい』と仰ることが多いのです」
「また鏡ごしでテーラーと話す場合は、思ったことはすべて伝えてください。『このへんがボテッとしている』といった抽象的な言葉でもいいと思います。結局、最終的なフィット感は着ている人にしかわからないのです。一緒に作り上げていくのがオーダーであることを忘れずに」

Q9:サイズが変わった場合、どこまでお直しが可能か?
A:「ジャケット、パンツともに、だいたい6cmくらいまでは対応が可能です。既製服と比べると、生地はずっと多めに残してあります。既製だとせいぜい2cmくらいではないでしょうか? ちなみにジャケットの場合、太ったときより、痩せたときのほうが、お直しはずっと難しい。どちらも主に後身頃で調節するのですが、痩せたときのほうが前身頃とのバランスが取りづらいのです」

Q10:年齢に合ったオーダースーツというものはあるか?
A:「これはあると思います。若いうちはややタイトめなフィッティングを好まれる方が多いですが、年を経るに従ってゆとりのあるものを好まれるようになります。パンツのウエストも若人はキチキチが好きですが、年配になるとゆったりめを穿きたがる傾向があります」

Q11:達人たちの注文のやり方はどんなものか?
A:「当店の場合、形については、慣れている人ほど“おまかせ”なのです。細かくディテールを注文される方は少ないですね。せいぜいパンツのベルトをどうするか、くらいでしょうか? 逆に生地に対してはこだわりがあるので、お得意様には、珍しいものが入ったりすると御提案することがあります。とはいっても色柄ではなくて、クオリティの話です。例えば先日ドーメルの“ファントム”という生地が入ったのですが、カンデブーモヘア(南アフリカ産の高級モヘア)50%に、カシミア、スーパー210sのウール、そして希少獣毛のキヴィアックを混ぜたもので、ものすごくよかった。これは結局、世界で30mくらいしか作られませんでした。色は紺無地でしたが(笑)。通の方はこういったものを好まれますね」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 26
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