Thursday, May 9th, 2019

A DUET OF WARP AND WEFT
縦糸と横糸のデュエット

英国の名門テーラー、ケント&ヘイストのジョン・ケント氏とテリー・ヘイスト氏にお願いし、
イタリアのヴィターレ・バルベリス・カノニコ社の生地を使って、英伊合作のスーツを仕立てた。
by tom chamberlin photography kim lang

ヴィターレ・バルベリス・カノニコ社が提供してくれた、非常に軽いピンストライプの生地を使って、それぞれテイストの異なった4着のスーツが生まれた。難しい生地であったが、達人たちの手にかかり、素晴らしい仕上がりとなった

宗教には与えられないもの

 カフェイン、タバコ、酒、砂糖などと同じく、布は耽溺性のある物質だ。過剰摂取のおそれがないため、ワクワクするような布地への追求は尽きることがない。
 THE RAKE はちょっとした生地マニアを自任している。縦糸と横糸のデュエットが、何世紀にもわたって男の装いを形作ってきた。この記事では英国人テーラーと、イタリア製生地が織りなす試みをお伝えする。
 今日のテーラーの多くは、名高いカッターがひとりで舵取りをしているが、私たちが頼ったのは、ふたりのカッターが仲よく作業をしているハウスである。そのふたりこそ、エディンバラ公の御用達許可証を持つジョン・ケント氏と、彼の秘蔵っ子、テリー・ヘイスト氏だ。
 ふたりはコンストラクテッド仕立てとアンコン仕立てを使いこなすことで知られている。両氏から助言をもらおうと、サヴィル・ロウのカッターたちがちょくちょく顔を出すのは知られた話だ。
 思想家ラルフ・ウォルドー・エマソンは、「身なりが完璧に整っているという自覚は、心に平穏感をもたらしてくれる。これは宗教には与えられない感覚だ」と述べた。これこそケント氏とヘイスト氏の取り組みを表す言葉とも言える。 
 当然ながら、私たちは今回の試みで使用する生地を選ばねばならなかった。このような場合、私たちが頼るのは、由緒あるファミリー経営の生地メーカー、ヴィターレ・バルベリス・カノニコ(VBC)社である。そして今回もVBC社は、目を見張るような9オンスの生地を、ひと巻き送ってくれたのだ。
 柔らかくしなやかで、滑らかな手触りと軽やかな着心地を備えたこの生地は、くっきりとした細いピンストライプ柄だ。イタリアと英国の感性を兼ね備えた生地をデザインしたなら、まさにこんな感じになるだろう。私たちはケント氏とヘイスト氏に依頼し、この上質なイタリア製生地を使って、4着のダブルスーツを仕立ててもらおうと考えた。

生地の軽さは“諸刃の剣” 比較的落ち着いた仕上がりになったのは、6つボタン2つ掛けのダブルブレステッドという、ハウススタイルにおおむね沿った私自身のスーツだ。身長が193cmもある私は、生地をごっそり使ってしまった。だが、ピンストライプには着やせ効果があるらしいので、その点は助かった。
 生地の軽さは、ヘイスト氏がコンストラクテッド仕立てとアンコン仕立てを併用するうえで、諸刃の剣となった。
「あなたは肩回りが大きいため、首回りと背中にしっかりした強度が必要です。生地が非常に軽いうえ、ピンストライプが追加効果をもたらしますから、裾は自然と格好がつきます。肩を適切に仕立てることができれば、スーツはきちんと仕上がります」と言った。
 完成品は実に見事だった。12.7 c mのラペルは英国的に見えるこのスーツに、いくぶんヨーロッパ的な雰囲気を添えている。トラウザーズを仕立てる職人も凄腕で、見栄えのする、これまでに見た中で最高のプリーツだ。生地が軽量なため、トラウザーズの裾が重くなりすぎないよう、折り返しは付けないことにした。だが、折り返しを付けることにしたウェイ・コー、ニック・フォルクス両氏が実にキマっているため、この判断は好み次第ということだ。
 THE RAKE の創始者、ウェイ・コーは、ハリウッド随一の洒落者、ダグラス・フェアバンクス・ジュニアを彷彿とさせるスーツを希望した。14.6cmという大ぶりなラペルを備えた、4つボタン1つ掛けのジャケットだ。スーツを仕立てたのはジョン・ケント氏。ケント氏は伝統を重んじるテーラーで、マッチ棒のように細いラペルや、丈の短いジャケットといったスタイルを嘆いている。
「ラペルのロールが長いため、ウエストラインは完璧に仕立てなくてはなりません。ボタンの位置が高ければ、ウエストラインにもう少しゆとりがあっても目立ちませんが、ボタンの位置が非常に低いですから、ウエストラインを正確に仕立てることが、全体を安定させます」
 ケント氏はこのスーツが30年代を思い起こさせるという。もっとも、当時の生地はもっと重かっただろう。彼は、このヴィターレ・バルベリス・カノニコの軽やかな生地を非常に気に入ったという。
「素晴らしい生地でした。生地がスタイルを引き立てました。ピンストライプがスーツ全体を縦長に見せてくれました。幅広のラペルと釣り合うよう、トラウザーズには太めの折り返しを付けました。伝統的なサイズではおかしかったでしょう。結局、5.4cmになりました」

ピンストライプの難しさ 私たちにケント&ヘイストを紹介してくれたのは、友人であり、本誌の寄稿者でもあるニック・フォルクス氏だ。英国に彼らを超えるテーラーはいないというのが、フォルクス氏の主張である。ケント氏には顧客の願望に対する第六感のようなものがあり、心理的要求まで理解してくれるという。
 フォルクス氏のスーツは、ダブル・ウエストコートの上にダブル・ジャケットをまとうスリーピースだ。
「80年代に育った私は、ピンストライプのスーツをたくさん目にしました。そのため、仕立ての悪いピンストライプ・スーツに対して恐怖症なんです。不出来なものは目を覆うばかりですが、ケント&ヘイストのような達人の手に掛かれば、生地の可能性は最大限に引き出されます」とフォルクス氏は語る。
 ケント&ヘイストは婦人服も手がけている。今回ご紹介するダブル・ジャケットは、伝統的な6つボタン2つ掛けタイプだが、ボタン位置を変えられる点がスマートで、ウエストコートも付属している。ご覧のとおり、ウエストコートはバックレスで、シャツなしで着用できる。
 女性向けにバランスを変える必要はあるものの、女性のスーツを仕立てる手法は、男性のスーツと変わらないとヘイスト氏は語る。つまり、クライアントの心理的要求は何なのかを理解しなくてはならないという。
 今回、1枚の生地は4着のスーツを生み出した。ケント氏とヘイスト氏が命を吹き込んだ生地は、至高のクラフツマンシップを体現した。私はといえば、自分に対するより大きな自信を得たように思う。やはりこれは、宗教には与えられない感覚だ。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 26

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