The Rakish ART ROOM Vol.03
今買える、世界の名画 Vol.03
モイーズ・キスリング
July 2020
『モンパルナスのキキ』と同じ年に着衣のキキを描いた、『赤いセーターと青いスカーフをまとったモンパルナスのキキ』(1925年/プティ・パレ美術館、ジュネーヴ蔵)。モンパルナスのカフェやナイトクラブで夜な夜な大騒ぎをしていた女王とは思えない、控えめな態度と思慮深い眼差しが印象的だ。©Aflo
ラ・ロトンドでキキと顔見知りになったキスリングは、その後街で顔を合わせるたびに、まだ10代の彼女に向かって「売春婦」「ばばあ」などと汚い言葉を投げつけた。しかし相手の気を引くための子供じみた呼びかけにキキが応じると、ふたりは意気投合し、キスリングはキキをモデルに数多くの作品を描いた。
1925年に制作された《モンパルナスのキキ》は、キキが24歳の頃のヌード。歌手や女優としても人気を博したキキは「モンパルナスの女王」として街に君臨し、ダダイストのマン・レイと同棲を始めていた。裸のキキの後姿にバイオリンのf字孔をつけたあの有名なマン・レイの写真作品《アングルのバイオリン》は、この前年に制作されている。本作が描かれた場所は、ジョゼフ・バラ街にあったキスリングのアトリエ。空前の好景気で「狂乱の時代」にあったパリは、小説家のヘミングウェイによれば毎日が「移動祝祭日」の様相だった。だが画中のキキは、そんな外界の喧騒から隔絶されて、降り注ぐ陽光の中、まどろむように白い裸体を横たえている。
本記事は2019年7月25日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 29