Thursday, July 18th, 2019

BIG LIGHT

ハリウッドの寵愛を受ける才人

自分の人生を捧げる覚悟で
 残念ながら、芸術性や創造性といった分野は「セレブリティ・カルチャー」に浸食されつつある。かつて有名人といえば誰もが認める才能の持ち主だったが、最近ではお騒がせタレントとして荒稼ぎし、しまいにはフォーブス誌の「もっともパワフルなセレブ」ランキングに登場する者まであらわれた。こうした風潮のせいで、本物の才能を持つ名優たち、つまりポール・ニューマンやリチャード・バートン、シドニー・ポワチエ、ローレン・バコール、オードリー・ヘプバーンの跡を継ぐ現代のプロフェッショナルの縄張りが荒らされ、真の芸術的価値で注目されるのが難しくなるというジレンマを抱えている。トゥッチは当然ながら、偽りの名声に異議を唱える。
「僕もこれには困ってるんだ。理解できないし、ひどいやり方だよ。そんな輩には全く興味がないね。誰も興味がないはずだ。残念ながらそういう人は多いし、それで有名になってる。実力もないのに有名になっても、つかの間の名声に過ぎない。がんばっている人が素晴らしいのは、努力して何かを成し遂げてるからだ。自分の人生を捧げてもいいと思えるなら、教師でも、医師でも、配管工でも、どんな仕事でもいい。それをきちんとやったのか、全力でやったのか、一歩先まで進んだのか、物事をより良くしたのか?」
 トゥッチがこれまでのキャリアで得た名声は、良いことのために利用されている。彼は、サミュエル・L・ジャクソンが進めている男性のがんに対する啓蒙活動「ワン・フォー・ザ・ボーイズ」をはじめ、数々のプロジェクトに参加している。ジャクソンはこのコラボレーションについて次のように話す。

「彼と協力しようと考えたのは、理にかなっていたよ。彼はカリスマ性があり、感性が豊かで、すごく知的だからね」
 トゥッチは最近、人のためになることをしたいという思いと料理への情熱が相まって、2冊目の料理本『ザ・トゥッチ・テーブル』を出した。この本の収益はトラッセル・トラストやニューヨークのフードバンクに寄付される。
「『名声』のおかげで、この本が出せたよ。僕は料理が大好きだし、変に聞こえるかもしれないけど、自分のレシピをみんなに伝えたいんだ。月並みな言い方だけど、本当にそうしたい。しかも、印税はすべてトラッセル・トラストに行く。美味しい料理を食べて育った自分はすごくラッキーだと思うし、そうでない人はたくさんいる。だから、ごくシンプルな方法で食に対する関心を高めることができるのなら、その収益はトラッセル・トラストのような団体に寄付したい」

監督としても開花する才能
 1996年に公開されたトゥッチの監督デビュー作を観れば、料理に対する彼の思い入れがわかるだろう。『シェフとギャルソン、リストランテの夜』でトゥッチが演じるのは、疲れ果てたギャルソン。この映画はアメリカで成功しようと戦うイタリア移民の話だが、特筆すべき点は無理な要求をしてくるマフィアの影がないことだ。コメディながら深みがあり、ブロードウェイの舞台『レンド・ミー・ア・テナー』で「クレバーなアイデアにあふれた茶目っ気のある監督」と評されたトゥッチの持ち味がこの作品でも生きている。レストランに「パラダイス」という大げさな名前をつけたユーモアも、アメリカンドリームを夢見て賭けに出る主人公の純朴さを際立たせ、観る人の琴線に触れる。その賭けの成否を握るのは、ルイ・プリマという歌手がひいきにしてくれるかどうかなのだが、「彼はただの人じゃない。有名人なんだ」というセリフが、戦後のアメリカにおける幸せの追求、そして人生や自由に対するゆがんだアプローチを一言で表している。
 この映画は多くの高い評価を受けた。サンダンス映画祭の審査員大賞をはじめ、自主制作映画の名だたる賞にノミネートされ、ニューヨーク映画批評家協会賞やボストン映画批評家協会賞、インディペンデント・スピリット賞に輝いた。食が持つ文化的なインパクトと、食にまつわる喜びや悲しみ、狂気、物語を浮き彫りにする最高にパーフェクトな作品といえよう。オムレツを作る場面は静寂に包まれているが、観ていると胸が痛む。善人が悪人に負けてしまうからだ。ロマンチックな正義には反骨心があり、慎重かつ巧みに事を進めればなんとかなる、というお膳立てにしなかった脚本には勇気がある。多くの評論家は、メッセージ性の高い本作を、映画製作者がお手本にすべき作品として挙げている。

料理本にあふれる彼の人生観
 先述の『ザ・トゥッチ・テーブル』も実に素晴らしい。彼のセンスやカリスマ性がどのページにも感じられる。家庭、家族、そしてチャリティの大切さを伝えるハートウォーミングな一冊は、単なる料理本ではなく、彼がバランスの取れた人生を送っている証でもある。
 妻はエミリー・ブラントの姉フェリシティ。夫妻はロンドン南西部のバーンズで4人の子供とともに暮らしている。末っ子のマッテオはフェリシティとの間にできた初めての子供だ。他の3人は最初の結婚でもうけた。
 メリル・ストリープがゴッサム・アワードの功労賞を彼に授与する際に話したように、トゥッチは乳がんで闘病していた最初の妻ケイトを2009年4月に失い、悲しみに暮れた。この料理本にはケイトの思い出も詰まっているのだ。
 彼は、『プラダを着た悪魔』で演じたナイジェルについて、「彼の仕事が彼のアイデンティティだ」と語ったことがあるし、彼自身も以前はそういうタイプだった。だが、この本からわかるように、いまではもっとバランスの取れた人生を送っており、安定感や充足感が感じられる。
「今、良い方向に向かっていると感じているけど、以前はもっと仕事中心の毎日だった。子供が生まれると、アイデンティティの大きな部分を占めるようになる。子供中心の生活になるんだ。そうしないと、何もかもがダメになるし、誰も幸せになれない。すべてが変わるけど、これは良い変化だと思う」
 さまざまな顔を持つスタンリー・トゥッチは私たちを魅了し、夢中にさせ、啓蒙し、喜ばせ、興奮させ、楽しませる。彼の仲間になると気分が上がり、元気になる。業界内外で彼の話を聞くと、誰もが「彼の持ち味をきちんと伝えてほしい」「スタンリー・トゥッチが大好きなんだ」と言う。実際、彼の演技力は認められ、才能も評価され、キャリアはますますパワーアップしている。自らの能力を存分に発揮しているので、「持ち味がきちんと伝わるか」を心配する必要はない。そして、彼のクリエイティブな探求心は留まるところを知らない。
「僕はいまでも仕事に夢中だけど、以前ほど量をこなす必要はない。量を減らして、もっといい仕事をしないとね」

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THE RAKE JAPAN EDITION issue 08
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