Thursday, July 18th, 2019

BIG LIGHT

ハリウッドの寵愛を受ける才人

年を重ねてこそ得られるもの
 男らしさをめぐるこうした風潮の中で、40 ~ 50代以上の男性がクールなスタイルアイコンとして再び脚光を浴びるようになった。55歳のトゥッチも上げ潮に乗り、公私ともに円熟期を迎えている。「今は現場にいるのがとても面白いし、ベテランとして指導的な立場になることも多い」と彼は言う。
「今の僕にとって大事なのは、若い俳優や監督と仕事をするときに全力投球することだ。最近ではどんな役でも、やるべきこととやるべきじゃないことがわかる。若いときは真剣に取り組んでいたけど、肩に力が入っていた。今も真剣に取り組んでいるけど、肩の力が抜けてるんだ」
 トゥッチの名誉のために言っておくと、彼はこれまでのキャリアを通じて、イメージが固定化される役を避けてきた。『プラダを着た悪魔』 では都会的で親身になってくれて、困ったときに助けてくれるナイジェル、『ハンガー・ゲーム』では一見すると極悪非道のゲームショーの司会者、『マージン・コール』では非常に好感度の高い銀行家、『ラブリーボーン』ではロリコンのジョージ・ハーヴィを演じているが、どの作品でも観る人を惹きつける。こうして実に多彩な役柄を演じているが、彼自身はどんな役でもできると思っているわけではない。「できると思えば引き受けるし、できないと思えば引き受けない」と彼は言う。
「やりますと言ったら、自分のため、みんなのためにいい仕事をするよ。だって、それが僕の仕事だからね」

ジャクソンも認める名脇役
 サミュエル・L・ジャクソンは本誌インタビューで、以前こう語っていた。
「僕は『死の接吻』でスタンリーと共演して、すごく親しくなったんだ。名バイプレーヤーとして有名な彼は、どんなプロジェクトにも全力投球して、題材を引き立て、周囲のみんなを輝かせてくれる。彼が演じるキャラクターは味があり、作り込まれているから、いつも魅了されるし、もっと見たくなるよ」
 特定の作品が広く人気を集めているわけでもないのに、トゥッチが映画やテレビ、舞台にたえず出演しては絶賛されているのは、彼がプロ意識を持って真摯に取り組んでいるからだろう。このことがもっともよくわかるのが『ラブリーボーン』。2002年に出版されたアリス・シーボルドの同名小説をもとに、ピーター・ジャクソン監督が夢物語ではない現実を夢のように表現した作品だ。この映画はあまり好意的な評価を受けなかった。サイケデリックで後味の悪い映画だからだ。痛ましいテーマよりも、アーティスティックな演出に重きを置いているように思えるため、残念ながら平穏な暮らしを乱す悲劇がきちんと表現されていないという意見も聞かれた。
 だがトゥッチは異彩を放っていた。脂ぎったバーコードヘアにフレディ・マーキュリー風の口ひげをつけた、ふだんの風貌とは似ても似つかない姿で、奇異なキャラクターを演じたのだ。
 ピーター・ジャクソン監督は絶妙なキャスティングに定評がある。『ラブリーボーン』が名作と呼ばれることはないだろうが、トゥッチが世界屈指の名優であることは明らかになった。アカデミー賞にノミネートされたのも当然だし、受賞を逃したのは作品のテーマのせいであって、彼のせいではないだろう。エミー賞、グラミー賞、オスカー、トニー賞のすべてにノミネートされた数少ない俳優の一人だという点も注目に値する。4つの賞をすべて獲得した者は12人しかいないのである。それにしても、トゥッチはどうやってこれほど多彩なキャリアを築き、これほど評価を得たのだろうか。

誰もが認める俳優としての才能
 彼は、役作りに対するアカデミックなアプローチを謙虚に、哲学的に、知的に語る。メリル・ストリープの隣にいても、稀代の名優らしい落ち着きを漂わせ、誰にもひけをとらない。メリル・ストリープは本誌にこう話してくれた。
「彼にはおおらかな心と、途方もないエネルギーと、あふれんばかりの気力があるの。この3つは、生まれ持った才能に次いで、俳優として長く輝かしいキャリアを積むうえでもっとも大事な要素じゃないかしら。自尊心が傷つくことがたくさんある役者稼業だけど、演じることが大好きならがんばれる。彼は現場を楽しくしてくれて、撮影を盛り上げてくれるの。結果として、誰もが恩恵を受けているわ。『プラダを着た悪魔』はもちろん、『ジュリー&ジュリア』で共演したシーンがうまくいったのは、すべて彼のおかげよ」
 トゥッチはこうした特異な状況にまったく気づいていないわけではない。主役を食ってしまうほどの演技力について聞かれると、「わかってる。どういうわけか、観客は僕を見たくなるらしい。なぜかわからないけど、僕はそんなに見られたくない。なんだか恐いよ」と答えた。
 とは言うものの、ここまで注目されるのは演技に抑制が効いているからだと自覚している。役を演じるうえで大切なのはキャラクターの本質を伝えようとする誠実さだということも決して忘れない。
 彼はこんな話をしてくれた。
「ずいぶん前になるけど、友人が監督を務める舞台に起用してもらったんだ」
 駆け出しの役者だった彼は、強い印象を与えようと意気込んで舞台に臨んだ。
「ところが監督はこう言った。『やめてくれ、余計なことはしないでくれ。人が役者でいられるのは、人に観たいと思ってもらえるからでもあるんだ!』 全くその通りだ。これは僕にとっていい教訓になったよ。役者は登場人物の真実を伝えるだけじゃなく、自分が参加している作品の雰囲気を理解して、その雰囲気になじまなくちゃいけない。目立とうとすると失敗するんだ。これを若い役者に言うとショックを受けるが、それじゃダメだよね」
 おそらく彼の演技力は、なにより天賦のものだろう。だが、はっきりしているのは、トゥッチが人の感情や感覚を深く理解しているということだ。これこそが、彼の才能の礎だろう。研究や学びを大切にする彼のアプローチには非常に冷静な側面があるが、客観と主観のバランスも取れている。
「頭でっかちになると、クリエイティブなものが死んでしまうんだ。例えば、親が子供を芸術家にしたいと思うと、やり方や型にこだわらずに自己表現させ、ノーと言わずに何でも好きにさせることがある。でも、芸って野放図なものじゃない。むしろ、その逆だ。そこには特有の枠がある。芸が存在している理由の一つは枠に反発するからだし、新しい型や枠を生み出そうとするからだ。感情を理解してきちんと表現できるのは、芸という表現にとってすごく健全なことだね」

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スリッポン Cifonelli
ポケットチーフ property of The Rake
眼鏡 本人私物

『シェフとギャルソン、リストランテの夜』(1996年)。

ネオノワール映画『パブリック・アイ』(1992年)。

『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』(2011年)のエイブラハム・アースキン博士。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 08
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