Thursday, July 18th, 2019

BIG LIGHT

ハリウッドの寵愛を受ける才人
役に入り込み、ドラマティックに演出することで、ストーリーを進展させる才能を持つ
ハリウッド屈指の名優 スタンリー・トゥッチ。かのメリル・ストリープに『プラダを着た悪魔』や『ジュリー&ジュリア』が
成功したのはすべて彼のおかげ、とまで言わしめる彼の秘密をひもとく。
photography tomo breje text tom chemberlin fashion and art direction sarah ann murray

比類なきバイプレーヤー
 時代遅れの呼び名に聞こえないといいのだが、スタンリー・トゥッチは知的であり、女性にとってのセックスシンボルである。スマートで、滑舌が良く、ユーモラスで、ハンサムで、スキンシップ好き。明瞭で落ち着いたニューヨークのイントネーションと甘い声が魅力的だ。俳優、映画監督、プロデューサー、作家、料理本の著者、父親、利他主義者……彼にはいくつもの顔がある。興味をかき立てるのは、これまでのキャリアを通じて、どんな作品でも一番印象に残る役を演じてきた彼の才能だ。控えめなのに主役を食ってしまう、バイプレーヤーといえるだろう。これほどの力量やミステリアスな雰囲気を持つ役者はめったにいない。
 ロンドンにあるクラリッジスのレストラン「フォイエ」でのインタビューが終わると、すぐ近くのメイフェアにあるザ・コンノートで長々と写真撮影を行ったが、装いが称賛されるたびに中断した。ガジアーノ&ガーリングの靴、そしてエドワード・セクストンやラルフ・ローレンのアイテムには拍手喝采が起こり、ダブルのベストを合わせたトム・スウィーニーのスリーピーススーツも、さまざまなコーディネイトを試しながら、慎重に吟味した。撮影が終わると彼はこう言った。
「じゃあ、トム、マティーニを飲みに行こうか。君を死ぬほど退屈させるよ」
 もちろん彼は、私を死ぬほど退屈させるという約束は果たしてくれなかった。
 以前、メリル・ストリープはトゥッチについてこう語っている。
「彼は男らしくて自信たっぷりだから、相手を笑わせることもできるし、パーフェクトなマティーニもつくってくれるの。『ジュリー&ジュリア』の撮影中は毎晩つくってくれたわ」

ファッションをこよなく愛する
 目の肥えた読者なら、トゥッチがサルトリアルに詳しいことに気づいただろう。ファッションに対する彼の想いは至ってシンプルだ。「ファッションが純粋に好きなんだ。本当に大好き」と言う。
「ジーン・ケリーが『巴里のアメリカ人』で見せた装いは素晴らしかった。『北北西に進路を取れ』のケーリー・グラントはグレイのスーツで通していたね。『泥棒成金』のオープニングシーンで彼が着ていたクルーネックセーターと水玉模様のネッカチーフも実にクールだった」
 もっとも、彼のファッションセンス、そしてファッションを大切にする姿勢を育んだのは、映画ではない。
「ありのままの自分でいて心地良く感じたことが一度もない。身だしなみを整えているほうが気分がいいんだ。父はいつもおしゃれだったね。美術の教師だったけど、いつもスーツを着て学校に行っていた。カフリンクスやタイタックは自作していたし、母のためにジュエリーもつくっていたよ。父は絵も描くし、家具もつくるし、運動はできるから、とてもかっこよかったけど、一番男らしいと思ったのは、ファッションセンスだったな」

“大人の男”だった映画スター
 トゥッチはニューヨーク州ウエストチェスター郡にある小さな村、カトナで育った。愛情に満ちた家族と頼もしい男たちに囲まれ、そんな男たちに「男気」を学んだそうだ。その頃のファッションは男性のもっとも「男くさい」要素に満ちていた。当時についてこう語っている。
「昔の映画スターは若者じゃなくて大人の男だったね。40年代以降に活躍した憧れの俳優たち、ケーリー・グラントにマルチェロ・マストロヤンニは若造じゃなく、一人前の男。大人だけど少年のような欠点も持つ男たちだった。それが80 ~90年代になると、状況が一変したんだ」
 80年代は情熱を秘めたヒーローがもてはやされ、昔ながらの典型的な「主演男優」は第一線から姿を消した。トゥッチは昔に回帰しようとする昨今のカウンターカルチャーを称賛しているが、まだ先は長い。20世紀末は若いポップスターが席巻し、俳優やミュージシャン、ボーイズバンド、ティーンエイジャーのピンナップによって旧世代が脇に追いやられると、ファッションも変化した。ドレスコードが廃れ、破れたジーンズやスパイキーヘア、ロングヘアにクォーターバックのようなラフスタイルが台頭する。その結果、一部には、スタイリッシュな男性を見ると同性愛を連想する風潮が生まれた。こうした風潮のせいで、ダンディで粋なスタイルはさらにアンダーグラウンド化してしまった。トゥッチはこのことに以前から不満を持っている。
「面白いんだけど、ゲイの役を演じていると、ゲイやストレートの男性から『君はゲイだろ』とよく言われるんだ。ゲイの役を演じていて、身だしなみに気を使っているから、ゲイだと決めつけるなんて、理解できない。短パンを穿いて、ビール缶がプリントされたTシャツを着れば、ストレートに見えるのか? 人殺しの役も演じてきたけど、僕は人殺しかい?」

プリンスオブウェールズチェックのスリーピーススーツ Thom Sweeney
タイ、ドレスシャツ ともにEmma Willis
ポケットチーフ Budd Shirtmakers

メリル・ストリープと共演した『プラダを着た悪魔』(2006年)。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 08
1 2 3

Contents