Tuesday, July 16th, 2019

RUNNING WITH SCISSORS
モードになったスウェットパンツ

現代の男は、極上のくつろぎを自由に手にしている。
それが、ファッションにスウェットパンツを取り入れる着こなしだ。
もはや、スウェットは“体操服”ではないのである。
text josh sims photography ben harries fashion editor sarah ann murray

 コメディアンのディミトリ・マーティンは、「スウェットパンツを穿く人こそが最も汗(スウェット)をかきそうにない人だ」と指摘したが、これは当たっているだろう。それはスポーツをするための服ではなく、缶ビール片手にソファでくつろぎながらスポーツを観るのに最適な服となっていた。
 実際のところ、スウェットパンツは長い間、男性服のなかでもダサい服の代表格だとされてきた。腰回りがゆるいパンツは、日曜日の外出着で、染みがつき、惨めに落ちぶれた社会のはみ出し者たちが着る服だった。
 しかし、近年ファッション界は、スウェットパンツをファッション・アイテムのひとつとして生まれ変わらせるべく、努力奮闘してきた。
 特に、素材に贅沢なカシミアを使ったことで、その可能性が広がった。ハーディ・エイミスやジョン スメドレーといったブランドが独自のデザインのスウェットパンツをリリースし、ベルルッティやマイケル・バスティアン、トム・ブラウン、ボッテガ・ヴェネタ、デレク・ローズ、ドルチェ&ガッバーナ、エルメスといったところもそれに続いた。
「スウェットパンツは現代の生活に非常に適した機能を持っている。男たちのワードローブに、スウェットパンツの居場所は確かにある」と、ハーディ・エイミスのクリエイティブ・ディレクター、メフメト・アリは言う。

ファッションとしての可能性
 スウェットパンツはおよそ1世紀という長い歴史を持っている。グレイのニット地で作られた最初のジャージーパンツは、1920年後半にル コック スポルティフの創設者エミール・カミュゼによって考案されたものだといわれている。ゆったりとしたシルエットで、ウエストはひもで縛るようになっていた。
 第二次大戦までには、ほとんどの軍で訓練着として採用され、1950年にはスポーツ選手がウォーミングアップやトレーニングの際に着る服として定着した。
 ジャージー素材は保温性、通気性や吸湿性に優れており、それまでスポーツ時に着用されていたウールの服とは違い、洗いやすく、すぐ乾くという利点があった。
 汚れが目立たず、洗えば洗うほど味が出るため、グレイ・メランジが標準的な色として用いられるようになった。
 トラックスーツは技術面を改良し、首元まで上げられるファスナーや、より大胆な色使い、速さを象徴するストライプのデザインなどが施された。
 1970年代から80年代には、ヒップホップ・カルチャーの影響で、ナイロンからベロアまで、ありとあらゆる素材を使ったスウェットパンツが生み出されたが、最終的には“何もしないときのための服”というところに落ち着き、現在に至る。
 しかし、もしもスウェットパンツが、フォーマルとカジュアルの間の境界線を、自由に移動できるようになったらどうだろう? ベルルッティのクリエイティブ・ディレクター、アレッサンドロ・サルトリは、その可能性を追求している。
 彼は、イタリアのロロ・ピアーナ社と協力し、これまでのスウェットパンツより、かっちりして、柔らかすぎず、かつリラックスできる素材を開発した。そしてそれを使って、より洗練されたラインを持ち、紐のウエストと伸縮性のあるカフスに、ボタンフライや縁かがりをしたポケットなどの凝った仕上げを施したスウェットパンツをデザインした。
「この服にぴったりな名前はまだ思いつかない。スウェットパンツではあるけれど、部分的にオーダーメイド服の要素を取り入れているんだ」とサルトリはいう。
「これはある種のチノとスウェットパンツのハイブリッドみたいなものだね。もちろん、こういった服を最初に着るというのは勇気がいるものだけど、これからメンズ服の一つとして、ちゃんと確立されていくのが想像できるよ」
 そして、「スウェットパンツをブレザーに合わせてドレスアップできるのは、スウェットパンツを、フォーマル化したから。スラックスのような雰囲気を残しながらも、かっちりしすぎていない印象を保てるんだ」ともアリは言う。
 スウェットパンツは、試合前のロッカールームやジム用の服、そして自宅でくつろぐためのリラックスウェアといったイメージから、ファッション・アイテムへ移行しようとしているのだ。

1984年のロナルド・レーガン大統領。エア・フォース・ワン機内にて。タカ派で知られたレーガンが、フォーマルとカジュアルのボーダーを軽々と超えていたとは驚きだ。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 08
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