BIG LIGHT

俳優:スタンリー・トゥッチ
ハリウッドの寵愛を受ける才人

July 2019

photography tomo breje text tom chemberlin fashion and art direction sarah ann murray
issue10

『ヴェルサイユの宮廷庭師』(2014年)。

 80年代は情熱を秘めたヒーローがもてはやされ、昔ながらの典型的な「主演男優」は第一線から姿を消した。トゥッチは昔に回帰しようとする昨今のカウンターカルチャーを称賛しているが、まだ先は長い。20世紀末は若いポップスターが席巻し、俳優やミュージシャン、ボーイズバンド、ティーンエイジャーのピンナップによって旧世代が脇に追いやられると、ファッションも変化した。ドレスコードが廃れ、破れたジーンズやスパイキーヘア、ロングヘアにクォーターバックのようなラフスタイルが台頭する。その結果、一部には、スタイリッシュな男性を見ると同性愛を連想する風潮が生まれた。こうした風潮のせいで、ダンディで粋なスタイルはさらにアンダーグラウンド化してしまった。トゥッチはこのことに以前から不満を持っている。

「面白いんだけど、ゲイの役を演じていると、ゲイやストレートの男性から『君はゲイだろ』とよく言われるんだ。ゲイの役を演じていて、身だしなみに気を使っているから、ゲイだと決めつけるなんて、理解できない。短パンを穿いて、ビール缶がプリントされたTシャツを着れば、ストレートに見えるのか? 人殺しの役も演じてきたけど、僕は人殺しかい?」

年を重ねてこそ得られるもの 男らしさをめぐるこうした風潮の中で、40 ~ 50代以上の男性がクールなスタイルアイコンとして再び脚光を浴びるようになった。55歳のトゥッチも上げ潮に乗り、公私ともに円熟期を迎えている。「今は現場にいるのがとても面白いし、ベテランとして指導的な立場になることも多い」と彼は言う。

「今の僕にとって大事なのは、若い俳優や監督と仕事をするときに全力投球することだ。最近ではどんな役でも、やるべきこととやるべきじゃないことがわかる。若いときは真剣に取り組んでいたけど、肩に力が入っていた。今も真剣に取り組んでいるけど、肩の力が抜けてるんだ」

issue10

メリル・ストリープと共演した『ジュリー&ジュリア』(2009年)。

本記事は2016年1月23日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 08

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