July 2019

A SINGULAR WOMAN

唯一無二のトップ女優 ジュリアン・ムーア

text tom chamberlin
photography richard phibbs
fashion direction grace gilfeather

「実に画期的な作品でした。同性カップルを忌まわしい存在ではなく、ごく普通の家族として描いたからです。大学で出会ったふたりが長年ともに暮らし、よく考えた上で子供を持ちますが、子供が大学に行く年頃になると家族に変化が訪れる。誰もが共感できるような心温まるストーリーで、ほかに類を見ない内容でした」

 スティーヴ・カレル演じるキャルの妻で、満たされない女性を演じた『ラブ・アゲイン』(2011年)や、性格の悪い大女優ハヴァナ・セグランドを演じた『マップ・トゥ・ザ・スターズ』(2014年)、そして、裏切り者をミンチにしてしまうポップなヒール役を演じた『キングスマン:ゴールデン・サークル』(2017年)と、ジュリアンは近年も素晴らしい演技を見せている。

 特筆すべきは、『アリスのままで』(2014年)で待望の初オスカーを獲得したことだ。認知症や高齢化、医療制度の課題をめぐる議論が世界各国のニュースで報じられた当時、アルツハイマー病を患う女性と周囲への影響を描いたこの作品は実にタイムリーだった。ジュリアンの演技は、言葉がおぼつかなくなった言語学者アリスの優雅で哀しい人物描写に感情的な深みを見事に与えていた。

次世代に伝える大人の責任 ジュリアンは『アリスのままで』と同じように、大人は次世代によりよい遺産を残すべきだという責任を強く感じている。イギリスのEU離脱について、こう話す。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 27
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