July 2019

A SINGULAR WOMAN

唯一無二のトップ女優 ジュリアン・ムーア

text tom chamberlin
photography richard phibbs
fashion direction grace gilfeather

 ジュリアンが注目されるきっかけとなった作品は、先に紹介した映画だけではない。彼女はアカデミー賞に5回もノミネートされているが、その最初の作品が、ポール・トーマス・アンダーソン監督作品『ブギーナイツ』(1997年)である。彼女のキャリアにおける記念碑的作品だ。家族とその大切さ、アウトローが家族を見つけるまでの道のりをテーマに、外面的には華やかながら内面的には陰鬱だった1970年代のポルノ業界を描いている。ジュリアンが演じたのは、撮影クルーの母親的存在であるポルノ女優のマギー。出演契約したときを思い返し、彼女はこう話す。

「脚本が素晴らしく、感動したんです。脚本家には明白なビジョンがありました。私が誰より先に出演を決めたんですよ」

 彼女が次々と作品への出演を決めたこの時期は、映画好きにとっての黄金期でもある。『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997年)のような大作に加えて、『ビッグ・リボウスキ』(1998年)や『マグノリア』(1999年)にも出演。名監督や大物俳優とも仕事をするようになった。そして彼女はそこから現在に至るまで、継続して名声を博しているのだ。

力ある女性として考えること ジュリアンが女性のロールモデルとして果たした役割を振り返りたい。彼女は社会における女性の立場を今までにないやり方で変えてきた。その一例が、“男性の添え物としての役柄は演じない”という強い姿勢だ。『ハンニバル』(2001年)でも、アンソニー・ホプキンス演じる主人公のレクターは一線を守り、ジュリアン演じるクラリスの裏をかくことはなかった。この力関係は仕事のみならず、人生全般に通じるものだ。彼女は、謙虚さと常識的なコミュニケーションこそ建設的な方法だと感じている。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 27
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