Thursday, October 3rd, 2019

THE HONORARY BRIT
英国紳士なハリウッド監督

脚本家、プロデューサー、俳優、そして映画監督であるポール・フェイグは
実に人好きのする人物だ。オンオフ問わず完全無欠な着こなしに引きつけられる人もいれば、
完璧なマナー、人柄、情熱やウィットに魅せられる人もいる。
彼はあらゆる既成概念を打破する存在である。
photography jamie ferguson text & creative direction tom chamberlin
Special thanks to Mark’s Club

Paul Feig ポール・フェイグ
1962年ミシガン州生まれ。南カリフォルニア大学映画芸術学部を卒業後、俳優や脚本家、監督とマルチに活躍。代表作は『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』(2011年)、『デンジャラス・バディ』(2013年)、『ゴーストバスターズ』(2016年)など。女性コメディ作品には特に定評がある。伝統的な英国スタイルをこよなく愛し、仕事中でも私生活でもスーツを着用する姿がトレードマークとなっている。

LAから持参した彼のワードローブの一部をご紹介。彼が着用するビスポークスーツはアンダーソン&シェパード。シャツはビバリーヒルズのAnto。タイはラルフローレン創業50周年記念にTHE RAKEとコラボレーションしたセットのうちの1本。チーフとブートニエールはシャルベで、シグネットリングはティファニー。ステッキは、ジェームズ・スミス・アンド・サンズのもの。

 5カ月ほど前、ポール・フェイグはロンドンのストリートを計画的に封鎖した。次回作『Last Christmas(原題)』の撮影のためである。ジャーミンストリートやボンドストリートといったそのロケ地の多くは、英国の魅力的なテーラーに対する彼の興味を象徴している。彼は仕事中でもプライベートでも自身の装いに情熱を傾けており、その見事なスタイルはすっかりトレードマークとなっている。本記事に掲載している写真は次回作のセットで撮影したものだが、映画製作につきもののガヤガヤした雰囲気とは対照的だ。その姿はまるで、アルフレッド・ヒッチコックやハワード・ホークス、セシル・B・デミルといった往年の巨匠たちの古典に対する敬意を体現しているようだ。
 彼のスタイルは昔から完成していたわけではない。初めはアロハシャツとショーツ姿で監督をしていたが、スーツを着た映画会社役員とのスタイルの格差から働く権力に居心地の悪さを感じ、やがて“自分のスタイルを追求し進化させたい”と自らもスーツを着るようになった。
「ラルフ・ローレンからは大きな影響を受けたよ。クラシックなアメリカンスタイルを追求したからね。僕はディスコ時代に育ったけれど、ケーリー・グラントがダブルのスーツで登場するような映画が好きだったから、“ああいう方向を目指したい”と考えるようになったんだ」
 さまざまな刺激を追い風にして現在の位置にたどり着いた。とはいえ、そのスタイルには個人的な目的もある。「スーツとタイを身に着けていないと、全然集中できない気がして」と彼は言う。
「ある監督に“朝起きてスーツを着るエネルギーがどこにあるんだ?”と尋ねられたよ。でも僕にとっては、一日の準備のための楽しい習慣。しなければ変な感じがする。心地よく感じることなんだ」
 ポールは、アンダーソン&シェパードのスーツとジョージ クレバリーのシューズを軸にスタイリングを組み立てることが多いという。粋なスタイルは、シャルベのブートニエール、チーフ、タイの鮮やかな色彩によって構成されている。ホンブルグハットやボーラーハット、ステッキなどを取り入れるという点では、大胆さも構成要素のひとつかもしれない。
「伝統的な英国式テーラーリングのスーツや、ボーラーハット、傘、モーニングが大好きでね。最近夢中なのはハンティングウェア。撃つ(shoot)ことはないけど、映画は撮る(shoot)からね(笑)」
 彼の個人的なスタイルが自身の作品に影響を及ぼしたのは、実はつい最近のことだ。『シンプル・フェイバー』(2018年)の撮影に向けた話し合いで、ポールは女優ブレイク・ライヴリーに対し、彼女が演じるやり手のPRディレクターはどんな装いをしていると思うかと尋ねた。するとライヴリーは、「アイコニックな着こなしね。ポール、まさにあなたのような装いをしていてほしいのよ」と答えたのだ。そんなわけで彼女の衣装はメンズライクなスーツスタイルが中心となり、ポールの私物のステッキも活躍している。監督のファッションに大きな刺激を受けたライヴリーは、プロモーションでもスーツスタイルばかりとなり、ラルフ ローレンのヴィンテージスーツまで着用するまでになった。

女性を輝かせる監督としての手腕

 ポールは最高の映画を一貫して生み出すクリエイターであり、同業者を啓発すると同時に人々を喜ばせる存在だ。その名声をいっそう輝かせているのは、彼こそが現役監督の中で最も女性を大切にしているという世評である。『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』(2011年)、『デンジャラス・バディ』(2013年)、そしてかの名作のリブート『ゴーストバスターズ』(2016年)と、いずれも女性を中心に描き、女性は“小道具である”とか“面白いことはできない”といった迷信を打ち破ってきた。
「ケーリー・グラントやロザリンド・ラッセルが活躍していた1930~40年代では、女性は男性と対等だった。ところがやがて女性たちは性的対象としてぞんざいに描かれるようになった。僕はハリウッドにやって来てから女優や女性コメディアンと友人になって、彼女たちがいかに面白いかを知っていたから、スクリーンに登場する彼女たちがつまらない役を任されていく状況がいつも気になっていた。これは変える努力が必要だと」
 女性に囲まれた環境で育ち、それが自然で心地よいタイプだった。自認するところによれば、異性としてではなく「友達扱いされたり、“まるで女兄弟みたい”と言われたり」したそうだ。そんなポールが、いざ女性中心の作品を作ろうと試みると、映画会社から軽くあしらわれた。あまり利益が見込めないと思われたのだ。そこで誕生した作品が『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』だ。2011年当時は、「#MeToo」運動で業界が変化する前だったが、ポールは同作のような映画は「とっくの昔に登場すべきだった」と述べる。とはいえ2本の監督作で失敗していた彼にとって、これは大きな勝負だった。自分がしくじったら女性が活躍する映画を自らの手で滅ぼしてしまうというもどかしさがあった。成功するかどうか、ハリウッド全体が固唾をのんで見守っていたのがわかったという。
 しかしご存じの通り、この作品は大成功を収めた。何も、ポールが女性の気持ちを代弁できる賢者だといっているわけではない。彼は女優や女性スタッフたちとうまく連携し、物事がうまくいかない場合に彼女たちが普通に意見を述べたり相談できるように門戸を開放してきたのだ。
 撮影現場でのポールは期待に違わぬ人物だ。人のよさは作品として結実し、チームは信頼と好意を寄せている。彼は他者が尊重されるために仕事をし、自分のスタイルを磨いてきた。あらゆる点で粋な男であり、誰もが見習い、敬意を表するべき男なのである。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 28