Monday, July 8th, 2019

A SINGULAR WOMAN
唯一無二のトップ女優

舞台リハーサルで摑んだチャンス
 そんな新米の苦労を帳消しにしてくれたのが、ニューヨークの演出家アンドレ・グレゴリーとの出会いだった。1990年、グレゴリーはジュリアンをチェーホフ原作の舞台『ワーニャ伯父さん』に起用し、延々と続くリハーサルを通して刺激的な指導を行った。彼女は当時をこう振り返る。
「人生で最も深い演技経験。これほど学んだ場は他にありません。上演日未定の舞台のリハーサルに挑んだのは初めてでしたし、演じながら存在感を存分に発揮できるという奥深い経験だったのです」
 この様子を収めたフィルムは*『42丁目のワーニャ』(1994年)というドキュメンタリ
ー映画となった。同作でジュリアンは批評家たちの興味を一気に掻き立てた。また、1993年の『ショート・カッツ』、1995年の『ケミカル・シンドローム(SAFE)』、『9か月』でも世間から注目を浴びる。当時の評価についてこう話す。
「“何が起こったの?”という感じでした。女優としてまだ認められていなかった私がアーティストと呼ばれ、“素晴らしい”と評価されるのですから」

*『42丁目のワーニャ』 = ルイ・マル監督(『死刑台のエレベーター』ほか)の遺作。上演日未定の舞台劇のリハーサルを描いたドキュメンタリー。

仕事の成功と“家族”
 実績に見合った名声を順調に得てきたが、ジュリアン自身はスポットライトを浴びたがるタイプではなかったようだ。プライベートも控えめで、家族との生活がゴシップネタになることもない。人生を満喫できる収入を得ているはずだが、生活の中心はあくまで家族だ。地方公演など、家族と離れる時間はできるだけ少なくしているらしい。
「昔は働いて自活したかっただけ。自分の生活を大切にしていたので、大スターになりたいなんて思ったことはありません。もともとプライベートを優先するようなタイプじゃなかった。でも夫と出会い、ふたりの子供が生まれ、やがて学校に通うようになり、家族を守りたいと思うようになりました」
 ジュリアンが注目されるきっかけとなった作品は、先に紹介した映画だけではない。彼女はアカデミー賞に5回もノミネートされているが、その最初の作品が、ポール・トーマス・アンダーソン監督作品『ブギーナイツ』(1997年)である。彼女のキャリアにおける記念碑的作品だ。家族とその大切さ、アウトローが家族を見つけるまでの道のりをテーマに、外面的には華やかながら内面的には陰鬱だった1970年代のポルノ業界を描いている。ジュリアンが演じたのは、撮影クルーの母親的存在であるポルノ女優のマギー。出演契約したときを思い返し、彼女はこう話す。
「脚本が素晴らしく、感動したんです。脚本家には明白なビジョンがありました。私が誰より先に出演を決めたんですよ」
 彼女が次々と作品への出演を決めたこの時期は、映画好きにとっての黄金期でもある。『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997年)のような大作に加えて、『ビッグ・リボウスキ』(1998年)や『マグノリア』(1999年)にも出演。名監督や大物俳優とも仕事をするようになった。そして彼女はそこから現在に至るまで、継続して名声を博しているのだ。

力ある女性として考えること
 ジュリアンが女性のロールモデルとして果たした役割を振り返りたい。彼女は社会における女性の立場を今までにないやり方で変えてきた。その一例が、“男性の添え物としての役柄は演じない”という強い姿勢だ。『ハンニバル』(2001年)でも、アンソニー・ホプキンス演じる主人公のレクターは一線を守り、ジュリアン演じるクラリスの裏をかくことはなかった。この力関係は仕事のみならず、人生全般に通じるものだ。彼女は、謙虚さと常識的なコミュニケーションこそ建設的な方法だと感じている。
「パワーがもたらすものはたくさんあることはわかっています。でも、パワーとは上下関係を表す言葉。なぜ私がパワフルになる必要があるんでしょう? 他の誰かより偉い立場になる感じがするので、パワフルになりたいとは思いません。それよりも一体感を大切にしたいのです」
 平等や敬意を求める昨今の女性たちの活動についてジュリアンの考えを聞くと、落ち着いた態度でこう語ってくれた。
「男女間で当たり前だと思われていた行動がいまだにありますね。時代が変化しているのですから、許されることと許されないことについて見直すべきでしょう。女性だけで解決策を進められることではないから、男性にも対話に加わってもらいたい。喧嘩腰になるのは避けたいから、みんな怖じ気づいているようだけど、私は男女ともに前進したいのです」

『ゲーム・チェンジ 大統領選を駆け抜けた女』(2012 年)。

トム・フォード監督の『シングルマン』(2009年)。

『エデンより彼方に』(2002年)。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 27
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