July 2019

A SINGULAR WOMAN

唯一無二のトップ女優 ジュリアン・ムーア

text tom chamberlin
photography richard phibbs
fashion direction grace gilfeather

「スタジオの体制変更などが重なって、封切り後のサポートが万全ではなかったんです。傑作で素晴らしかったのに」

 ジュリアンはあるインタビューで「悲劇は私の得意分野」と語ったことがあった。普段からジョークが多いとはいえ、この言葉には説得力がある。彼女は斬新で、ときには不快な題材で激しい苦悩を表現し、赤裸々な性描写に挑み、複雑なキャラクターを見事に演じてきた。

 アカデミー賞だけが演技を評価するわけではない。現代エレガンスの旗手であるトム・フォードが、監督デビュー作の『シングルマン』(2009年)にジュリアンを起用したことを思い出してほしい。彼女はコリン・ファース演じるジョージの親友で、華やかな風貌ながら心の傷を抱えるチャーリーを演じた。キャスティングにあたっては、美に決して妥協しないフォードらしく、美しい老いを表現できる役者を探したという。40歳を超えても20代に引けを取らない美を表現するのは難しい。

『シングルマン』は同性愛テーマのステレオタイプを大きく覆した作品といえるが、そういえばジュリアンとアネット・ベニングがふたりの子を持つレズビアン・カップルを演じた『キッズ・オールライト』(2010年)も斬新な作品だった。ジュリアンは同作について、こう語る。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 27
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