Through the looking glass

ロスチャイルド家のパーティへようこそ

June 2019

text stuart husband

優勝した愛馬のセリゾルと並ぶギーとマリー・エレーヌ。1957年、シャンティイにて。

奔放な男爵夫人 1927年ニューヨークに生まれた彼女の本名は、マリー・エレーヌ・ナイラ・ステファニー・ヨシナ・ヴァン・ツイレン・ヴァン・ニエベルト・ヴァン・デ・ハールという(驚くほどのヴァンの数だ)。

 母親はエジプト人で、その祖先はシリア移民。父親は、外交官でオランダ系ユダヤ人の実業家でもあった。父方の祖母が、国際的なモーターレースに初めて出場した女性としても知られるエレーヌ・ド・ロスチャイルド男爵夫人だったことから、ギー男爵とは遠い親戚に当たる。

 若き日のマリー・エレーヌは、母親譲りの自由奔放な性格だった。ニューヨークのメリーマウント・カレッジを卒業後、パリへ渡り、ニコライ伯爵と結婚した。

 出会った当時は、ギーも別の女性と婚姻関係にあったが、出会いから6年後の1957年、最終的にふたりは“民事婚”として結婚することとなる。

「私たちのダブル離婚のせいで、さまざまな騒動が巻き起こった」と、男爵は当時を振り返っている。

 この「騒動」とは、マリー・エレーヌが前の結婚を取り消し、彼女が信仰するカトリック以外の人間と再婚することについて、ローマ教皇の特免を受けなければならなかったこと。また男爵側としては、フランスのユダヤ人社会のトップの座を、捨てなければならなかったことを指す。大きな障壁を乗り越えたマリー・エレーヌは、夫の言葉を借りれば、「私以上にロスチャイルドらしい人間」になっていった。

「当時の私は、ロスチャイルド家の中で一番若かった」と、マリー・エレーヌは新婚当時を回顧する。

「いろいろ学びたくて、目を大きく見開いていた。好奇心の塊で、何でも見てみたい、やってみたいと思っていた」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 15
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