June 2023

MAGNETIC IMAGING MARLON BRANDO

銀幕のゴッドファーザー:マーロン・ブランド

マーロン・ブランドは、大酒飲みで虐待をする父親から肉体を、やはりアル中でアーティスティックだった母親から詩人としての魂を受け継いだ。この両親が、マーロン・ブランドに独特の存在感を与え、彼はスクリーン上で強い印象を残した。彼はいつも真実を語っているように見えた。友人のひとりは、ブランドは命がけで演技をしていたと述べている。
text stuart husband

Marlon Brando / マーロン・ブランド1924年ネブラスカ州オマハ出身、2004年没。20世紀で最も影響力のある俳優のひとりとされる。1951年に戯曲『欲望という名の電車』が映画化された際に、高い評価を得てアカデミー賞主演男優賞に初ノミネートされた。約60年にわたるキャリアを通じて、アカデミー賞2回、ゴールデングローブ賞2回、カンヌ映画祭賞1回、英国アカデミー映画賞3回など数々の栄誉に浴した。

「1947年、マーロン・ブランドが破れて汗ばんだTシャツを着て舞台に登場したときは、まるで地震が起きたようだった」

 作家ゴア・ヴィダルはそう書き残している。テネシー・ウィリアムズ原作の舞台『欲望という名の電車』のスタンリー・コワルスキー役で、この俳優がブロードウェイデビューしたときのことだ。

「ブランドはアメリカにおけるセックスの形を変えた」とヴィダルは続ける。「彼以前は、どんな男性も“エロティック”だとは思われていなかった。男は本質的にスーツ姿がいいのであって、その肉体ではなかったのだ」。

 ここでブランドは“気まぐれで、反抗的で、横暴な”ポーランド系アメリカ人を演じ、精神的に不安定だった妻の姉、ブランチ・デュボアをレイプし、発狂させてしまう。伝記作家ジョン・ラーによれば、それは演技史を永遠に変えるほどの衝撃であった。

 映画監督マーティン・スコセッシは、「彼がマーカーだ」と言った。「“ブランド以前”と“ブランド以後”があるのだ」と。60年近く経った後、『ニューヨークタイムズ』紙に掲載されたブランドの追悼記事では、彼の影響を定義するために“エポック”という言葉を使っていたが、それはいかにも控えめな表現に感じられた。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 50
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