Monday, June 17th, 2019

THE WORLD IS YOURS
世界を手にした実力派俳優

『ゴッドファーザー』、『スカーフェイス』、『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』など
ハリウッド映画界を代表する大御所、アル・パチーノ。
粗削りな魅力にあふれる、カリスマ的な名演技をもう一度観たいものである。
text ed cripps

 アル・パチーノは、身長167cmと小柄ながら大作の主役を張る男だ。都会に憧れる若者から、時代の流れに逆らう反体制的なヒーローまで、実に多彩な役柄をこなしてきた。冷たく潤んだ目に引き締まった鼻筋、ニヒルな口元、かすれた声……。どこか影のある甘いマスクで、70年代初頭はアンダーグラウンドな役柄の幅を広げた。
 シチリア移民の子として生まれた彼は2歳のときに両親が離婚し、母子家庭で育ったため、祖父と深い絆で結ばれて成長した。若い頃は靴磨きから、家具の運搬、果物磨き、映画館の案内係(鏡に映る自分の姿をしょっちゅう見ては悦に入っていたので、クビになったらしい)まで、どんな仕事でもしたという。やんちゃだった彼は、9歳で酒を飲むようになり、13歳でマリファナを吸い、17歳で母の意に反して高校を中退。21歳のときには武器の密輸容疑で逮捕された。
 しかし幸いにも彼は演劇に目覚め、理想的なエネルギーの捌け口を見つけた。
26歳から、メソッド演技法の権威であるリー・ストラスバーグが主宰するアクターズ・スタジオで演技を学び始めると、めきめきと頭角を現す。そして舞台での演技を通じて、あのフランシス・フォード・コッポラ監督の目に留まることとなったのだ。

映画史に残る名画と名演
 出世作はもちろん、コッポラ監督の『ゴッドファーザー』(1972年)だ。プロデューサーたちはウォーレン・ベイティやロバート・レッドフォード、ジャック・ニコルソンのような有名俳優をキャスティングすることを望んでいたが、コッポラだけは「カメラに映るのはアル・パチーノの顔だけだ」と主張した。
 アル・パチーノが演じたマイケル・コルレオーネは、第二次世界大戦中に海軍で活躍した英雄で、実家のマフィア稼業とは距離を置こうとしていた。冒頭のシーンでは、ガールフレンド役のダイアン・キートンを安心させようと「ケイ、これが僕の家族だ。だが僕は違う」と言う。堅気だと思われていた彼が、父の肘掛け椅子に初めて座り、汚職にまみれた警察署長を撃つと言い出すと、兄たちは笑った。しかし、実際にレストランで殺人を犯すと一変し、暴力や罪、裏切り、復讐の世界へと身を落としていく。やがて五大ファミリーのドンを暗殺し、義理の弟を殺し、裏切った兄のフレドまで粛清するのだった。冷酷さが増していく様子は、クリスマスショッピングの健全なシーンとは対照的だ。
 マイケル・コルレオーネは3部作を通じて、ビジネスとプライベートというファミリーが持つふたつの矛盾した顔に悩まされた。片方を立てようとすれば、もう片方が立たない。苦しむ彼は、子供を中絶したと告白する妻のケイを殴ることしかできなかった。アル・パチーノがより声高な演技を披露するPART III(1990年)では、大がかりな銃撃戦が展開されるが、心理的な駆け引きは少なく、先の2作よりプライベートの場面が多い。曇りゆく歌声に乗せてストーリーが展開され、最後にはイタリア・オペラの金字塔『カヴァレリア・ルスティカーナ』をバックに暗殺劇が企てられる。引退した裏社会の帝王は、娘の死に見舞われることになるのだ。ラストシーンで見せる孤独な横顔は、老いた父の面影を偲ばせ、1作目でマーロン・ブランドとアル・パチーノが演じたオレンジ畑での場面をもの悲しく思い出させる。この演技は本当に素晴らしい。アル・パチーノが彼自身の幻の父親をイメージしていたからだろう。

Al Pacinoアル・パチーノ
1940年、ニューヨーク市ブロンクス生まれ。『ゴッドファーザー』出演後、数々の映画で活躍、一躍スター俳優となる。1992年の『セント・オブ・ウーマン/ 夢の香り』で念願のアカデミー主演男優賞を受賞。名だたる女優との交際報道があるが、結婚歴はない。

1974年、ロンドンにて。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 15
1 2 3

Contents