June 2019

Through the looking glass

ロスチャイルド家のパーティへようこそ

text stuart husband

イヴ・サンローランと談笑するロスチャイルド男爵夫人。1973年、ロンシャン競馬場にて。

 その点幸い男爵には、マリー・エレーヌという、大きな支えとなってくれる存在がいた。

「エキゾチックで、華やかで、極端で、情熱的な人」と、1982年の銀婚式記念日に、男爵は夫人を称賛している。

「彼女は生きることに驚くほど貪欲で、常にハイテンション。言葉ではいい表せない魅力がある。自由奔放でさまざまな顔を持ち、それはまるで絶え間なく変化を続ける海のようだ」

 マリー・エレーヌは、シャトー・ド・フェリエールと、パリの真ん中にある夫妻の邸宅の大改装を行った。17世紀に建てられたサン・ルイ島のランベール館のことである。

 改装にあたって、世界的な伊達男かつ遊び人、アレクシス・ド・レデ男爵と、超一流インテリアデザイナーのフランソワ・カトルーの助けを借りて、ミニマリズムとは正反対の、後に“ロスチャイルド風”として知られるようになったスーパー・ゴージャスなスタイルをつくり上げた。

 ナポレオン3世の美術品、オリエンタル風の装飾、オランダの寄木細工、インドネシアのテキスタイルなどがミックスされ、貴重なミニチュアや希少本、家族写真、植木や花々が所狭しと並んでいた。ここで男爵夫人は、数えきれないほどのパーティを開いた。

 ウィンザー公爵夫人、イヴ・サンローラン、ベルナール=アンリ・レヴィ、アンディ・ウォーホルなど、社交界、実業界、芸術界など、さまざまな世界のトップスターたちが集まり、交わった。彼女は語った。

「誰かを喜ばせたいなら、正反対の人々と出会わせればいいのよ」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 15
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