The Rakish ART ROOM Vol.13
貴殿も世界の名画オーナーに!
April 2021
cooperation mizoe art gallery
1938年から40年にかけてパリに遊学したことのある猪熊弦一郎は、戦後の1955年に再びパリでの勉学を目指して日本を発った。ところが途中立ち寄ったニューヨークに惹かれてそのままとどまることとし、結局52歳から約20年間、ニューヨークを拠点に活動した。この渡米をきっかけに、猪熊は「都市」などをテーマに抽象画を描くようになる。この《EXPRESS WAY Q》も、ニューヨーク時代に描かれた作品だ。タイトルから高速道路を描いた作品とわかるが、畳の目のような細かい線で覆われたモノクロの渋い画面は、かえって日本的な印象を観る者に与える。《EXPRESS WAY Q》1967年、キャンバスにアクリル 102×76.5cm ¥15,000,000(税込価格)お問い合わせはinfo@therakejapan.com まで
その最たるものが、三越百貨店伝統の包装紙「華ひらく」。丸みのある抽象的なモチーフをちりばめた、赤色が映える華やかな包装紙は、第二次世界大戦後間もない1950年に、猪熊によってデザインされた。このとき猪熊にデザインを依頼した担当者が、当時三越宣伝部の社員で後に国民的アニメ「アンパンマン」の生みの親となる、あのやなせたかしである。そんな奇跡が生んだ「華ひらく」は、70年以上日本人に広く親しまれてきた、三越ブランドの代名詞的存在だ。
また東京にある猪熊の壁画では、慶應義塾大学三田キャンパスのカフェテリア「三田食堂」を飾る《デモクラシー》や、長きにわたって東京會舘のロビーを彩り、2019年に新本館(3代目)がオープンした際に1階廊下部分に移設されたカラフルなモザイク壁画《都市・窓》などが知られている。
しかしパブリック・アートとして不特定多数の人が気軽に目にすることができる猪熊の壁画といえば、やはりJR上野駅の《自由》が挙げられよう。
上野駅、中央改札の上部、三角屋根の部分を飾るこの巨大な壁画は、1951年に描かれた。近年の改装で駅舎も明るくなり、以前よりはスポットが当たるようになったものの、まだまだ知る人ぞ知る作品である。
東北の玄関口であることを象徴するように、そこにはスキー板を抱える人や、狩猟や林業に関わる人、また馬や牛、秋田犬にも似た犬なども描かれており、豊かな自然と人間が共生する、北国の楽しく平和な理想の世界を謳っている。戦後の物のない殺伐とした時代に、「もっと自由な気持ちで物の本質を見よう」という、猪熊の思いが込められた壁画である。
意外と身近にあった猪熊作品JR上野駅、中央改札の上部を飾る猪熊弦一郎の壁画《自由》。路上生活者や孤児たちがあふれ殺伐としていた、戦後間もない上野駅の環境改善を目指し、服部時計店や資生堂などがスポンサーとなり制作された。東北の玄関口ということで、スキー板を抱える人や、自然とともに生きる人など、北国にちなんだモチーフが描かれている。
本記事は2021年3月25日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 39