The Rakish ART ROOM Vol.13
貴殿も世界の名画オーナーに!
April 2021
cooperation mizoe art gallery
明治から平成まで、4つの時代を生きた、香川県出身の洋画家。1938年には渡仏してパリで学び、アンリ・マティスに師事。第二次世界大戦後の55年から約20年間拠点を置いたニューヨークでは抽象画の手法を獲得し、日本を代表する抽象画家となった。夫婦そろって愛猫家で、一時は10匹以上の多頭飼いをしていたことでも知られる。1993年、東京にて90歳で永眠。
90歳で亡くなるまでの70年という長い画業の中で、彼の様式や主題はさまざまに変わったが、晩年における重要なテーマが「顔」である。最愛の妻・文子を亡くした85歳の頃から、猪熊はキャンバスをいくつものマス目で区切り、そこにさまざまな表情の人間の顔を描く「顔」シリーズを制作し始める。妻の顔が出てくるかもしれないという思いから生まれたシリーズだったが、猪熊は人間の顔の造形的な面白さに目覚め、具象も抽象も区別のない晩年の境地へと入っていった。
写真1枚目の《人物》は、この「顔」シリーズのひとマスを大きく引き伸ばしたような作品である。このくっきりとした目鼻立ちの、歯を見せて笑う女性の顔を、猪熊は亡き妻を思って描いたのだろうか?彼が90歳で亡くなる4年前の作品である。
国際的な抽象画家として知られる猪熊弦一郎。パリやニューヨークなど海外での生活が長い印象だが、生まれ故郷の香川では親しみを込めて「いのくまさん」と呼ばれている。亡くなる前年の平成4(1992)年には、彼が所有するすべての作品を、少年時代を過ごした丸亀市に寄贈する文書も提出。2万点にも及ぶ彼の作品は、現在、JR丸亀駅近くに立つ丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で、常時展示されている。
とはいえ猪熊の作品は香川県などの美術館でしか観られないかというとそうではない。猪熊はデザインやパブリック・アートの分野でも数々の代表作を残しており、その作品は、案外私たちの身近なところで見つけることができるのだ。
本記事は2021年3月25日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 39