The Rakish ART ROOM Vol.06
今買える、世界の名画 Vol.06
アルベルト・ジャコメッティ
July 2020
1950年代、ジャコメッティは弟をモデルに、7点の胸像と数点の頭部の彫刻を制作した。そのうちの1点が本作である。細く引き伸ばされたフォルムに、波立つようなマチエールという、ジャコメッティ独自の様式をもったそれは細部が徹底的にそぎ落とされているが、何かを希求するように上を向いたモデルのまなざしは強く印象的である。
「ディエゴを写実的に再現するのではなく、自分の目に見えるままに形作ろうと試みた」。ジャコメッティの言葉からは、これこそが彼の目に映っていたディエゴ像であったことが窺える。ジャコメッティが「見えるままに」表現したかったのは、対象の表面ではなく、その奥にある本質だった。それをどう表現するかを、彼は追い求めていたのである。
ジャコメッティの数少ないモデルのひとりだった、ひとつ年下の弟ディエゴ。1925年、兄を追うようにパリにやってきたディエゴは、鋳物職人としてブロンズ家具や装飾品を手がける傍ら、ジャコメッティが使う石膏を混ぜたり、鋳物や彩色を手伝うなど、兄の制作を支え続けた。一時はアトリエを共有し、生活費を得るために共同で家具を制作するなど、ふたりは極めて仲のよい兄弟であった。
《Tete d’Homme IV. (Diego).》1964年、バーゼル市立美術館蔵。ジャコメッティが繰り返し描いた弟ディエゴの肖像。男性の肖像においてジャコメッティは頭部に強い関心を示したが、本作でも顔の部分は執拗に描き込まれている。©Aflo
本記事は2020年1月24日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 32