The Rakish ART ROOM Vol.06
今買える、世界の名画 Vol.06
アルベルト・ジャコメッティ
July 2020
長く引き伸ばされた彫像は、彼が「見たままに」表現した結果であった。
“ディエゴの胸像”弟のディエゴを、表現豊かに表した作品。1950年代、ジャコメッティはディエゴの胸像を繰り返し制作し、7点もの作品を残しているが、本作はそのうちのひとつである。ちなみに1962年に開催されたヴェネツィア・ビエンナーレには、このシリーズから1点が出品され、見事、彫刻部門のグランプリに輝いている。ブロンズ H36.2cm 1956年に制作、本作品は1957年に6体鋳造されたうちの4番目。 お問い合わせ:ザ・レイク・ジャパン info@therakejapan.com
余計なものを極限までそぎ落とし、長く引き伸ばされた彫像。初めてアルベルト・ジャコメッティの彫刻を見た人なら、誰もが思うのではないだろうか?
「この彫刻は、どうしてこんなに細長いのだろう?」
そのヒントとなるのが、彼が18〜19歳のときに体験した「洋梨のデッサン」のエピソードだ。スイスの小村ボルゴノーヴォに生まれ、画家の父ジョヴァンニの薫陶を受けて育ったジャコメッティは、ある日、父の求めに応じて「普通の距離」に置いた洋梨を見えるままに写そうとした。ところが洋梨は、父が描くような実物大にはならず、決まって小さくなってしまうのだ。
1922年、芸術家を目指してパリにやってきたときも、ジャコメッティはモデルを前に必死にデッサンを試みる。しかし結局、ものの大きさや距離感の把握に対する問題解決にはいたらず、20代半ばで写実に基づく表現を断念。以後約10年間、記憶やイメージをもとにキュビスム風やシュルレアリスム風のオブジェを制作し、彫刻家として成功をおさめた。
しかし、1933年に父ジョヴァンニが亡くなると、ジャコメッティは再びモデルを起用し、「見えるものを見えるままに」表すことに取り組み始める。彼の制作に協力を惜しまなかったのは、1歳年下の弟ディエゴであった。
ジャコメッティの1歳年下の弟ディエゴ・ジャコメッティ(1902-1985)。家具職人として活躍しつつ、ジャコメッティのモデルやアシスタントを務めるなど、兄の制作を支えた。彼の家具は、デザイナーのユベール・ド・ジバンシィも愛用していた。©Aflo
本記事は2020年1月24日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 32