The Rakish ART ROOM Vol.05
今買える、世界の名画 Vol.05
パブロ・ピカソ
July 2020
パブロ・ピカソ。死の前年に描かれた《男の顔》には、貪欲な生への情熱が宿っている。
男の顔1972年1月、ピカソが90歳のときに描いた作品。大きなマスケットハットをかぶった男の姿は、当時彼が関心を寄せていた画家フィンセント・ファン・ゴッホへのオマージュと考えられている。本作は1973年5月より開催されたアヴィニヨン教皇庁でのピカソの近作展に出品された。しかし彼はその直前、展覧会を観ることなく亡くなった。お問い合わせ:ザ・レイク・ジャパン info@therakejapan.com
画面いっぱいに大胆な筆致で描かれた男の顔。頭にはマスケット銃兵のような帽子をかぶり、あごや頬にはもじゃもじゃと髭が生えている。目、鼻、口は、作家お得意の多視点であり得ない位置に配置され、背景のウェットなエメラルドグリーンは薄塗りで、絵筆の跡も生々しい。また、顔と胴体の関係性が不明瞭なため、大きな顔は地平線の向こうから突然出現したようにも、生首が地面に直接置かれているようにも見えるのだ。
この極めてワイルドな男の顔は、20世紀美術の巨匠、パブロ・ピカソの作である。91年という長い生涯を生きた彼が、亡くなる前年に制作し、1973年5月23日より南仏アヴィニヨン教皇庁で行われたピカソの大規模な近作展に出品された。本人は直前に亡くなったため、展覧会を観ることはなかったが、生前、出品作として選んでいたところをみると、ピカソが《男の顔》に、強い思い入れを抱いていたことが推察される。
20世紀初頭、パリに出てきた頃より、青の時代、バラ色の時代、キュビスム、新古典主義、シュルレアリスム……と、自ら確立したスタイルを壊しては、新しい作風を生み出していったピカソ。この破壊と創造の巨人は晩年、ドラクロワの《アルジェの女たち》やベラスケスの《女官たち》、マネの《草上の昼食》といった傑作に着想を得て、過去の巨匠たちと対話をするような連作を描いた。
パブロ・ピカソ《帽子をかぶった座る老人》1970-71年、ピカソ美術館、パリ。
フィンセント・ファン・ゴッホが描いた数多くの自画像の中の1枚、《麦わら帽子をかぶった自画像》1887年、ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム。黄色い麦わら帽子を被ったファン・ゴッホの自画像は、ピカソの《男の顔》や《帽子をかぶった座る老人》のインスピレーションの源と考えられている。
本記事は2019年11月25日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 31