July 2020

The Rakish ART ROOM Vol.05

今買える、世界の名画 Vol.05
パブロ・ピカソ

text setsuko kitani cooperation mizoe art gallery

 本作も同様に、フィンセント・ファン・ゴッホによる麦わら帽子をかぶった有名な自画像にインスピレーションを得た作品といわれている。確かにこの時期、彼の自画像をアトリエの壁に投影したり、「耳切り事件」の記事を掲載した地元紙のコピーをとっておくなど、ピカソはファン・ゴッホに大きな関心を抱いていた。

 画中の男がかぶった大きな帽子や、頬を覆う髭は、ファン・ゴッホの自画像に託して描かれた、ピカソ自身の自画像といえるのかもしれない。ただし両目をカッと見開き、鼻孔や口を大きく開けた野生的な《男の顔》には、老いてなお生を貪ろうとするピカソの、溢れんばかりのエネルギーが感じられる。

ピカソ晩年のミューズ、ジャクリーヌ パートナーが変わると絵が変わるのか? 絵を変えたかったからパートナーを変えたのか? バラ色の時代の恋人フェルナンド・オリヴィエ以降、ピカソの芸術は、交際する女性が変わるたびに変貌した。その周期は約10年といわれるが、彼がファン・ゴッホへのオマージュとして《男の顔》を描いた晩年、20年間という長い時間をともに暮らしたミューズが、ジャクリーヌ・ロックである。

 ピカソとの間にふたりの子供をもうけたフランソワーズ・ジローが去った後の1953年、72歳の老画家は、黒い瞳と黒い髪が魅惑的な26歳の美女に出会う。彼女は、当時陶芸に夢中になっていたピカソが親しく交流していた南仏ヴァロリスの陶工ジョルジュ・ラミエ夫人の従妹で、イスパニア的な雰囲気を持っており、実際、スペイン人のピカソと母国語で話すことができた。以後ジャクリーヌは、ピカソが亡くなるまで彼に寄り沿うこととなる。

サント=ヴィクトワール山に立つ14世紀の城、ヴォーヴナルグ城。1973年4月に亡くなったピカソは、この城の前庭に埋葬された。

ピカソと、彼の晩年を支えた2番目の妻、ジャクリーヌ・ロック。

本記事は2019年11月25日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 31

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Contents

<本連載の過去記事は以下より>

今買える、世界の名画 Vol.01 マルク・シャガール

今買える、世界の名画 Vol.02 ワシリー・カンディンスキー

今買える、世界の名画 Vol.03 モイーズ・キスリング

今買える、世界の名画 Vol.04 アンリ・マティス

今買える、世界の名画 Vol.06 アルベルト・ジャコメッティ

今買える、世界の名画 Vol.07 クロード・モネ

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