August 2019

NICOLAS CAGE ニコラス・ケイジ

映画狂を虜にする
俳優:ニコラス・ケイジ

text nick scott
photography simon emmett
fashion direction jo grzeszczuk
Produced by Flower Avenue
issue10

「父は生前、大学教授をしていた。カリフォルニア州立大学ロングビーチ校で教鞭を執った後、サンフランシスコ州立大学でクリエイティブアーツ学部長になった。つまり僕は、芸術に関心を持つ専門家がいる家で育ったんだ。父はあらゆる文化圏の実験的な映画を好む人だったから、僕はF・W・ムルナウの『メトロポリス』、『カリガリ博士』、フェデリコ・フェリーニの『魂のジュリエッタ』なんかを見て育った。こうした映画は、僕に身の毛がよだつような恐怖とともに、興奮と知識を与えてくれた。まだ人格形成の途上にあった僕の心に入り込み、作品に関する悪夢もよく見たよ。父は映画館へも連れて行ってくれた。『猿の惑星』シリーズの第1作も、ドライブインシアターで見た覚えがある。あの作品にも大きく心を動かされた。自由の女神像と主演のチャールトン・ヘストンが登場するラストは、本当に衝撃的だった。父はブルース・リーの映画にも連れて行ってくれたな。実在のスーパーヒーローをこの目で見るという、とてつもなく刺激的な体験だった」

 ケイジの俳優人生は、有名な叔父とひと括りにされないために、コッポラという名字を変えることから始まった(ただし、彼は若い頃、『ランブルフィッシュ』と『ペギー・スーの結婚』という叔父が手がけた2本の映画に出演している)。そんな彼のキャリアは、ずっと多面的であり続けてきた。間もなく彼の新たな出演作となる作品も、その流れを受け継ぐものだ。そのひとつが、インディペンデント紙が「『パージ』と『アイス・ストーム』の融合」と評したホラー映画、『Mom and Dad(原題)』だ。過去10年の出演作の中でも、同作はお気に入りだとケイジは話す。一方、『Primal (原題)』は、近日中に撮影を始める予定のスリラーだ。さらに、インディーズ系のスリラー『Between Worlds(原題)』も編集段階にある。

「僕が非常に楽しみにしているもうひとつの映画が、パノス・コスマトス監督のもと、ベルギーで撮影した『Mandy(原題)』という作品だ。彼は冒険心溢れる映画制作者で、その手法は並外れて独創的なんだ。あの映画には、ブロンソンの影響もいくつか見られる。僕があの映画を楽しみしている最大の理由は、監督のビジョンだ。彼の手がけた『Beyond the Black Rainbow(原題)』という映画を見たことがあったんだけれど、あれには心底震え上がらされた。頭にこびり付いて眠れないほどだったよ。そんな映画や芸術作品はそうそうない。54年も生きていると、ちょっとやそっとでは動じなくなるけれど、彼はそれをやってのけたのだから。『Mandy』は復讐の物語で、僕の演じるレッド・ミラーはマンディを溺愛している。マンディは絵を描いて暮らす詩人のような女性で、レッドにとって最愛の人だ。ところが、カルト教団が僕の目の前で彼女を火あぶりにしてしまう。激怒した僕は、さまざまな変貌を遂げることになる。僕がこれまでやったことのないような作品になるはずだ」

本記事は2018年3月24日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 21

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