April 2024

MR.VICE GUY

俳優:サム・ロックウェル
アンチヒーローを極めた男

ジョン・ファヴロー監督の『アイアンマン2』(2010年)。

「撮影現場では次々と新しいものを生み出し、常にかき回そうとするサムのような人が必要なんだ。野外での共演シーンで、彼は“メチャメチャに演ってみないか?”なんて言うんだ。監督のマーティン・マクドナーは素晴らしい脚本家だけど劇作家としても成功をおさめた方。演劇は、彼の書いた言葉が一字一句変えられずに演じられる世界だから、サムがそんな発言をすることはマクドナーへの冒涜に近かった。でも彼は、僕があちこち動き回れるように、とにかくいろいろ試すんだ。まるでダンサーと一緒にいるようだった。いろんなテーマの中でダンスしているような感覚。彼がリードするときはこちらも準備ができていなきゃならない。あらゆる方向へターンして変化していく準備がね。彼は俳優として驚くべきスキルを持っている。めっぽう悪い男になり切ったと思ったら、今度は愛すべき存在に変化するという具合に、作品内でキャラクターの移り変わりをきちんと見せられるんだ。彼ならどんな役でも演じられる」

 ロックウェルがいかに好かれているか理解いただけるだろう。血も涙もない競争だらけのハリウッドの業界で、他者にプラスの影響を与える彼の人柄もまた魅力なのだと。ハレルソンは付け加える。

「アカデミー賞を受賞したときの拍手が異常なほど熱狂的だったのを覚えているだろう? それだけサムは観客から愛されていて、皆が一緒に興奮したからなんだ」

性格俳優の次のステージは ロックウェルはさらに、2018年の『バイス』でジョージ・W・ブッシュ役を見事に演じ、アカデミー賞の助演男優賞に再びノミネートされた(受賞は惜しくも逃した)。彼は身体的側面と人柄の両方を再現することで、ブッシュを表現した。悪人が悪行を正当化する姿は、俳優が工夫して演じなければうまくいかないものだ。この作品でロックウェルがハリウッドきっての性格俳優になりつつあるという主張は揺るぎないものとなった。

THE RAKE JAPAN EDITION ISSUE 32
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