May 2020

BUDD, KING OF SHEARS

シャツ作りの王、バド

text tom chamberlin photography kim lang

型破りな2枚1組のシャツ TheRake.comでは、店舗を訪れるための時間も機会もないという方に、バドの製品をラインナップしている。しかし今回、店舗のビスポークチームが挑んだのは、異色のモデルだ。クラシックなスタイルとは趣を異にしつつ、現代の男性のニーズにしっかり応える、型破りな2枚1組のシャツである。

 装いの上半分を2点で完成させるこのスタイルは、一見すると特に画期的でないように思える。今は重ね着の時代だし、旅向きのアイテムや暑さに対応した服はすでに存在するからだ。だが、この特集における私たちのテーマは、ビスポークならではのディテールとクラフツマンシップが共存する実例を紹介することだ。

 1枚目は、ラグラン袖のシャツという意外なアイテムである。史上初というのは言い過ぎかもしれないし、前例をご存じであれば教えていただきたいのだが、私は過去にラグラン袖のシャツを見たことがない。この業界において、おそらく最も豊富な知識を持つニック・フォルクス氏も、やはり見かけたことがないという。そして少々気がかりなことに、そうしたシャツが過去に仕立てられなかったのには相応の理由があるのかもしれないと話してくれた。だが、我々のそんな懸念は杞憂に過ぎなかった。

 バドのシニア・カッターであるダレン・ティアナン氏は、30年以上の経験を持つベテランで、仕立て界において指折りの優しく温厚な人物だ。しかも彼はこのスタイルを試みたことがあるという。その仕立て方は、袖口から袖口まで長く繋がった一枚の布で、うなじと後ろ身頃の上部全体を覆い、ヨークと両袖を作り上げるという並外れたもの。これは、左右の袖が肩で合わさる伝統的な形とも、一般的なラグラン袖とも違う。

本記事は2020年3月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 33

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