Monday, June 1st, 2020

HOW A PEASANT VILLAGE ROSE UP

セレブのための田舎町グシュタード

スイスの町・グシュタードの牛舎と木材置き場は、
わずか100年余りの間に高級感溢れるホテルやブティックアパートメントが立ち並び、
世界中のジェット族らを集める高級リゾートへと変貌を遂げた。
アルプスの山中にひっそりと佇む魅力的な町は、今も成長を続けている。
text nick foulkes
issue10

グシュタードのナイトクラブ「グリーンゴー」から出てきたリチャード・バートンとエリザベス・テイラー。

 ドイツの旅行案内書「ベデカー」が1895年に発行したスイス版には、「7月中旬から9月末にかけて、多くの旅行者がスイスを訪れる」とあり、旅行者に必要なあらゆる情報が満遍なく掲載されている。ただしグシュタードを訪れるつもりの者にとってでなければ、の話である。なぜならたった1行、「ラウェネン-タール間の入り口にある村」の記載しかないから。ベデカーを頼りにスイスを旅した人々は、後に世界で最も有名なリゾートのひとつとなるこの地を通り過ぎたことだろう。

 木材の生産が主要産業だったグシュタードに、旅行者が興味を引く要素はない。当時の写真には、点在する木造家屋や工場とともに積み上げられた丸太が写っている。これらは1898年に大部分が焼失した。壊滅的な打撃を受けた村は、もはや存在しないような状態に陥った。しかし1904年に鉄道が開通すると、焼け焦げた廃墟の村は見事、復興を遂げたのだ。

冬の新たなリゾート 20世紀の初めにウィンタースポーツが流行し始めると、グシュタードも新興リゾートへと変わっていった。鉄道開通から数年、村内のホテルの客室数は1000室に達したが、需要はこれをはるかに上回った。1913年には、ベデカーでさえも「冬のアルプスで過ごす利点も広く認識されるようになっている」と認めていた。そんな中、グシュタードには新たな計画があった。1913年12月から翌年3月までの冬季に、「グシュタード・ロイヤル・ホテル&ウィンター・パレス(現グシュタード・パレス)」を開業することだった。この最初のシーズンが世界を一変させたといっても過言ではない。まるで城のような佇まいのこの建物は、その後100年以上にわたって小さな村を見守ることになる。

 グシュタードの魅力は、その歩みを注意深く進めたところにある。グシュタード・パレスでは、1950年代に入っても駅までの送迎を馬車で行っていた。男たちはツイードやプラスフォーズ(ニッカーボッカーズ)を着てカーリングを楽しんだり、自分の身体と馬を結びつけてスキーで雪上を競走したりしていた。人々にとって、人生とはのんびり過ごすことだった。グシュタード・パレスのゲストには、シーズンを通して滞在する者も多かった。グリルルームに専用のテーブルを持っていた彼らは、ディナージャケットを着用する機会もあったことだろう。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 33
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