August 2019

BAGS OF CLASS

品格漂うグローブ・トロッター

text nick scott
photography steve lanceeld

レザーコーナーをスーツケースにプレスする工程。

 昔ながらの機械のおかげで、グローブ・トロッターが求める高度な技を駆使する職人たちは、何十年も慣れ親しんできた道具を使って作業を進めることができるのだという。

「ここで30年ほど働いている職人の一人は、古い機械しか使いたがりません。新しい裁断機を購入しても、新しいものは使おうとしません」

 しかし、当時の機械を用いた技術は、グローブ・トロッターを支える一つの柱にすぎない。もうひとつの柱は、自社工場での生産にある。

「当社は何も外注しません。あらゆる製造工程を、すべてこの自社工場で行います。しかも、各製造工程に投じる時間や手間を注意深くモニタリングしています。トラベルケースのレザーコーナーを仕上げるだけでも4日はかかります。裁断して、水に浸し、乾燥させ、昔ながらのプレス機で成形するという、この独自の工程を4回繰り返すと、唯一無二の頑丈なレザーコーナーができあがるのです」

 グローブ・トロッターの堅牢なトラベルケースに欠かせないヴァルカン・ファイバーは、非常にユニークで画期的であり、当時の最先端素材であった。特殊な紙を幾層も重ねて、重みや熱をかけて乾燥させたものだが、その製法は極秘のため、どのブランドにも真似することができない。

「ヴァルカン・ファイバーはアルミニウムのように軽いのに、レザーのように強靭です。当社のアーカイブコレクションには100年以上経ったトラベルケースがいくつもありますが、どれもまだまだ現役で丈夫です。10年ほど経つと水分が完全に抜けて、最高の強度に達します」

ハンドルを研磨機でなめらかに磨くことで、持ったときに手になじむよう仕上げる。

THE RAKE JAPAN EDITION ISSUE 08
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