April 2020

ANDERSON & SHEPPARD

最高峰のビスポークの真価

text yoshimi hasegawa photography james holborow

「45年の経験を持つジョーに比べて、私はまだ若輩、毎日が修行」と語るホール氏。

 最近はサヴィル・ロウ全体でもより軽く柔らかい仕立てという傾向があるが、そもそもアンダーソン&シェパードの伝統、名カッター、フレデリック・ショルティと彼の弟子である創業者パー・アンダーソンによる軽く柔らかな仕立ては変化させる必要がないという。

 フレッド・アステアやゲイリー・クーパーに代表される流麗なラインを持つダブルブレスティッドスーツが同店のシグネチャーとされている。だが、意外にも最近はシングルブレスティッドの3ピーススーツが最も人気だそうだ。

「最近ではブラウンのコーデュロイのようなカジュアル素材、メッシュウェーブといった通気性のいい素材も人気があります。私自身は仕立て栄えがして耐久性もある13オンス(380g)から14オンス(400g)といったファブリックが好きですが、素材も含めてあらゆることに対応できるのがビスポークです。選択肢が広いという意味で、スーツを注文する時に最も難しいのがファブリックの選択ですが、昔と比べて仕立ての技術、ファブリックの品質、そして人々の嗜好もよくなってきています。決まりにとらわれず、ビスポーク・スーツをもっと自由に楽しんでほしいですね」と穏やかな笑顔をのぞかせた。

 アンダーソン&シェパードでは、ホール氏を含め、5人のコートカッター、3人のトラウザーズカッターが在籍している。ジャケット(サヴィル・ロウでは伝統的にコートと呼ぶ)とトラウザーズ、それぞれ専任のカッターがいる店はサヴィル・ロウでも今はほとんどなく、これも同店独自の強みとなっている。

THE RAKE JAPAN EDITION ISSUE 32
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Contents

<本連載の過去記事は以下より>

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