The Rakish ART ROOM Vol.12
貴殿も世界の名画オーナーに!
ジャスパー・ジョーンズ
January 2021
cooperation mizoe art gallery
2011年2月15日、80歳のジャスパー・ジョーンズはオバマ大統領(当時)から、アメリカ合衆国で文民に贈られる最高位の勲章「大統領自由勲章」を授与された。©Aflo
第二次世界大戦後、アメリカの美術界は「絵画の純粋さ」や、「精神の至高性」を求めた抽象表現主義が席巻していたが、その誇大なレトリックの解体を試みたネオ・ダダは、日常的な事物をモチーフとし、美術界に新たな価値を吹き込んだ。彼らの手法は20世紀前半にヨーロッパで起こった、既存の芸術の概念にとらわれず、その意味を転倒させる反芸術運動ダダの試みに類似している。絵画や彫刻にそぐわないものを持ち込んで、芸術的でないものを芸術にするダダの戦後アメリカ版といえるかもしれない。
ここでジョーンズが自身の作品に持ち込んだ「絵画や彫刻にそぐわないもの」こそ、星条旗である。ある夜、大きなアメリカの国旗を描く夢を見たことから星条旗を描くことに決め、翌日画材を買いに行ったという彼は、「アメリカ国旗の意匠を使うのは、自分でデザインする必要がなかったから」と語っている。それに味をしめたのか、以降は「標的のような国旗と似たもの―既によく知られているもの」を続けてモチーフにしたのだった。
彼にとって星条旗や標的は、そこから何らかの意味やメッセージを読み取るというものではなく、あくまで誰もが知る「記号」のようなものということができるだろう。その意味では、ジョーンズと同世代であるポップ・アートの巨匠アンディ・ウォーホルが、マリリン・モンローなどのイメージを利用したのと似ているかもしれない。また「見られはするが、見つめられたり吟味されたりはしない」という点も、ジョーンズにとって旗や標的がモチーフとして好都合な理由のひとつであった。本来は、仰ぎ見られる旗や、狙われるものである標的を、なぜか芸術作品として鑑賞する。その違和感こそ、ジョーンズが作品に仕かけた「絵画とは何か?」という問題提起なのかもしれない。
本記事は2021年1月25日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 38