The Rakish ART ROOM Vol.11
貴殿も世界の名画オーナーに!
フェルナン・レジェ
November 2020
円筒形を多用する独自のスタイルを確立した頃の代表作。《本を持つ女》1923年、ニューヨーク近代美術館。©Aflo
《車輪の中の蝶》は、レジェのアメリカ滞在中の作品だ。早くから画家としての名声を得て、世界各国での展覧会や壁画制作などで忙しく活動していたレジェは、祖国フランスがドイツに占領された1940年、アメリカに亡命する。
世界で最もダイミックな工業社会と、光溢れるショー・ビジネスが発達した国アメリカは、1931年の初渡米からずっとレジェを魅了し続けた。第一次世界大戦で出兵した折、75ミリ砲の尾栓に太陽の光が当たる様に心を打たれて以来、現代世界の象徴として機械をモチーフにしてきたレジェにとって、あらゆるものが最先端のアメリカは、極めて相性の良い国だったに違いない。
とはいえ《車輪の中の蝶》に描かれているのは、生き馬の目を抜く工業社会のシンボル=ピカピカの重機械ではなく、花の咲いた雑草がからまる、うち捨てられた車輪や廃材と、ひらひらと飛び交う2匹の蝶の様である。
1943年の夏、ニューヨーク郊外の小さな田舎町ルース・ポイントで過ごしていたレジェは、雑草の生い茂る屋外のあちこちに、廃農器具が転がっていることに衝撃を受けていたという。この作品でレジェは、機械が明るい未来を約束する人類の理想世界ではなく、何の変哲もない田舎のすさんだ現実を描いたのだった。
本記事は2020年11月25日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 37