The Rakish ART ROOM Vol.05
今買える、世界の名画 Vol.05
パブロ・ピカソ
July 2020
1958年、ピカソはセザンヌが繰り返し描いたことで知られるエクス=アン=プロヴァンス、サント=ヴィクトワール山の斜面にそびえる古城ヴォーヴナルグを購入してジャクリーヌとここで2年間を過ごし、ピカソの最初の妻オルガ・コクローヴァが亡くなった後の1961年、ふたりは晴れて結婚した。80歳と34歳のカップルが南仏の小村ムージャン近くの丘の上、礼拝堂のある大きな農家「ノートル=ダム=ド=ヴィ」に移り、終の棲家としたのは結婚直後のことである。
ジャクリーヌが仕事の障害となるものをすべて遮断してくれたおかげで、ピカソは残り少ない人生を創作につぎ込むことができた。1968年から73年に亡くなるまでに彼が生み出した油彩画、素描、エッチングは1000点以上に及び、テーマは男女が激しく愛し合うものから、闘牛士、静物、自画像まで多岐にわたる。中には《男の顔》と同じく、帽子をかぶったファン・ゴッホに、袖がゆったりとした服を着たマティス、リウマチで手の不自由なルノワールの姿を、90歳の自分に投影したような男の肖像《帽子をかぶった座る老人》などの作品もあった。
しかし偉大なる巨匠も、ついに1973年4月8日、ムージャンの自宅で91年の生涯を閉じる。その喪失感に耐えられなかったのだろうか? 13年後、複雑な遺産相続の問題を解決させたジャクリーヌは、ピストルで自らの頭を打ち抜いてこの世を去った。
パブロ・ピカソ / PABLO PICASSO(1881-1973)20世紀美術の巨匠。スペインのマラガ出身。20世紀初頭にパリに出た後、青の時代、バラ色の時代と次々に作風を変え、1910年代に行ったキュビスムの実験では、絵画を遠近法から解放するなど20世紀最大の美術の革新者となった。1937年、ゲルニカの無差別爆撃に抗議して描いた大作《ゲルニカ》も名高い。
本記事は2019年11月25日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 31