La Vida Bella

秘密の楽園、マルベーリャ

February 2018

かつてマルベーリャ・クラブは、実生活から切り離された別天地だった。
外界が核戦争の瀬戸際まで追い詰められようとも、クラブの客はパーティを開いた。
スペインが誇るこの小さな楽園は、今もなお理想的な隠れ家であり続けている。
text nick foulkes

人工の滝の下で水遊びをする人々(1976年)

 マルベーリャ・クラブに関する逸話は数多くあるが、私の一番のお気に入りはウィンザー公にまつわるエピソードだ。愛する女性のために大英帝国の王冠を捨てた公爵は、ファッション、狩猟、ゴルフに費やせる時間が少々増えたことに気がついた。

 コスタ・デル・ソルはコスタ・デル・ゴルフという異名を持つほどなので、公爵が同地の有名ホテル、マルベーリャ・クラブに滞在することになったのは自然な流れだった。クラブの創設者は、故プリンス・アルフォンソ・フォン・ホーエンローエ=ランゲンブルク。昔話が好きだったアルフォンソは当時のことを、よくこんなふうに話した。

「ウィンザー公が来られたとき、マルベーリャ・クラブは60人ほどのごく親しい友人らで賑わっていました。そこで私は、ビーチクラブでウィンザー公のために晩餐会を催そうと考え、皆に参加しないかと呼びかけたのです。公爵には21時15分にお迎えに上がると伝え、他の客には21時に来るよう連絡しました。到着した公爵夫妻が皆を見下ろしてみると、全員が青いスーツとネクタイを身につけ、弁護士さながらにめかし込んでいたのです。それにひきかえ、赤と白のアロハシャツ姿だった公爵は、『アルフォンソ、私は急いでバンガローへ戻らねばならない』とおっしゃいました」

 公爵は黒っぽいスーツに着替えると、皆の前に再登場した。ところが、カラフルなアロハシャツ姿のウィンザー公を見たものだから、今度は皆がジャケットやネクタイを脱いでしまっていた。
「皆でビーチクラブへ行ったときの公爵はとても愉快でした。何しろ、ネクタイを外してプールへ投げ込んだのですから。公爵がさらにスーツの上着を脱いでみせると、盛大な拍手が巻き起こりました。この一件以来、公爵は何度も足を運んでくださるようになったのです」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 11
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