February 2018

La Vida Bella

秘密の楽園、マルベーリャ

text nick foulkes

ブリジット・バルドーとギュンター・ザックス(1970年代)

1950年代から変わらないもの ウィンザー公がこの景勝地に通ったときから半世紀以上が過ぎている今、公爵がマルベーリャを訪れたとしたら、見知らぬ地のように映ることだろう。マルベーリャにいち早く移住した人はこう語る。

「滑走路が1本あったけれど、広くもなければ長くもなかった。四方を見事な芝生に囲まれていて、オーバーランした飛行機が芝生の上でようやく止まる、なんてことも時々あったんだ。空港の建物はアンダルシア風の美しい小屋で、ブーゲンビリアに覆われたコテージのようだったんだ。バス停はなかったが、カリート(荷車)を持った男性が迎えてくれてね。当時はこんな普通のアンダルシアの田園生活が、訪問者を待っていたんだ」

 以来、滑走路の縁に立っていたコテージは国際的な交通拠点に発展した。そこから2時間かかったマルベーリャ・クラブへの道のりも、轍でデコボコした道から滑らかな高速道路へと変貌し、30分しかかからなくなった。しかし公爵も、クラブ自体はあまり変わっていないと感じるのではないだろうか。

 もちろん変わったところはあるが、多くは良い変化だ。部屋の水準が現代の豪華リゾートらしいものになった一方で、漆喰を塗った背の低いヴィラやスイートルーム、客室の数々に加え、松やヤシの木、異国風の樹木や草花が生い茂り、ブーゲンビリアの香気に満ちた庭園など、この場所のたたずまいや独特の雰囲気は昔と変わらぬ魅力にあふれている。

 また、公爵は最後の訪問からいささか時が過ぎたとはいえ、スタッフの中に知った顔を何人か見つけられるかもしれない。彼らは10代でマルベーリャ・クラブに就職し、引退を控えた現在もここで働いている。そしてもちろん、底抜けに楽天的な人生観を持つ、マルベーリャ・クラブ在住の“パングロス博士”ことルディ伯爵が、変わらぬ人懐っこさと温かさで公爵を歓迎することだろう。50年代からここで暮らしてきた伯爵は、今や地域社会に欠かせない存在で、彼の名にちなんだ通りがあるほどなのである。

ギー・ド・ロスチャイルド男爵とド・ルデ男爵(1970年代)

THE RAKE JAPAN EDITION issue 11
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