August 2021

ED ’N SHOULDERS

エドワード・セクストンが生む
官能的ショルダー

アーティスティックなテクニックを駆使するエドワード・セクストンは、クラシックな華やかさと男性的な現代のエレガンスを兼ね備えたスーツを生み出す。
このマスターテーラーの手にかかれば、スーツに万人の心を掴む力が宿るのだ。
text aleksandar cvetkovic
photography alex krook

右がエドワード・セクストン氏。左はThe Rake誌のAleksandar Cvetkovicだ。肩幅は広く、袖山はビルドアップし、胸にボリュームを持たせウエストはシェイプさせた、セクストンの象徴的4Bダブル。

 世界七不思議の中でも特に素晴らしい建造物といわれたアレクサンドリアの大灯台は、プトレマイオス1世によって紀元前280〜247年に建てられた。この灯台は崩壊するまで1200年近く存在し、竣工から1000年以上たった紀元後10世紀にあっても、「文明世界の実質的なランドマーク」となる偉大な功績だと称えられていた。超人的な野心から生まれた作品は、まさに建築の粋を極めた偉業といえよう。これほど高度な技術と見事なデザインが融合したモニュメントをどうやって思い付いたのか、見当もつかない。

 そこで私は考えた。プトレマイオス1世が建造した見事なデザインの灯台のように、エドワード・セクストンというマスターテーラーが手がけるスーツも、立体的で均整の取れた力強いビスポークテーラーリングのお手本として、これから何世代にもわたって語り継がれていくのではなかろうかと。

 精緻な技術と芸術性がこれほど見事に融合した服を仕立てるテーラーはほとんどいない。ミック・ジャガーが誂えたクリーム色のウェディングスーツは、独特のゆったりしたスタイルに幅広のラペル、長い裾にスムーズなラインが特徴だった。モンタギュー卿とその夫人のためにセクストンがカットしたお揃いのアイボリースーツは、アメフトの選手のようなショルダーラインを、引き締まった胸やシャープなウエストで引き立てていた。「セクストンルック」は比類のない上品さ、セックスアピール、ノスタルジアにほのかな大胆さを備えたものだが、ロック歌手や貴族が名を連ねる顧客リストを思えば、こうした要素はどれも納得がいく。

 セクストンは半世紀にわたってビスポーク界を席巻してきた。ホワイトハウスの芝生に着陸して大統領に会い、大統領の娘のためのスーツを仕立てたテーラーは彼しかいない。パリのクチュールメゾン、クロエのクリエイティブディレクターを務めたステラ・マッカートニーを最初の2年間サポートしたテーラーも彼である。ザ・ビートルズのメンバー4人全員の服を仕立て、アルバム『アビイ・ロード』のカバー写真のスーツを手がけたテーラーでもある。デヴィッド・ボウイからアンディ・ウォーホル、ナオミ・キャンベル、マリー・ヘルヴィン、サー・ハーディ・エイミス、ビル・ブラス、クレイ兄弟(そう、彼らもセクストンでスーツを誂えていた)、さらにはジョージ・ソロスやケリー・パッカー、ルパート・マードックといった大物も彼の顧客である。

鏡に映ったエドワード・セクストン氏の背中を見ておわかりのように、力強いショルダーラインからウエストに向かって見事に絞り込まれており、ヒップにぴったりフィットしたラインは実にグラマラス。ひと目で大胆に攻めたカットに色気が宿る 彼の仕立てとわかる、極上のカットである。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 11
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